内容説明
21世紀の歴史学はどうあるべきか。その答えを、その可能性を、古代ギリシアにさかのぼり、ペルシア戦争、ペロポネソス戦争を見据えた二人の歴史家と対話しながら考えていきたい。のちの歴史家たちが非難したようにヘロドトスはほんとうに「嘘つき」だったのか。史料批判において厳密だったといわれるトゥキュディデスは、ほんとうに「事実」だけを記録したのか。歴史叙述が歴史学へといたる端緒を探る。
目次
1 二人の歴史家と二つの戦争
2 ヘロドトスは嘘つきか?
3 新しいヘロドトス像
4 ヘロドトスの描いた史実
5 トゥキュディデスの「ヘロドトス批判」
6 トゥキュディデスが書かなかったこと
7 歴史叙述から歴史学へ
著者等紹介
桜井万里子[サクライマリコ]
1943年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了、博士(文学)。日本学術会議会員、前東京大学大学院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ジュンジュン
12
歴史学も歴史家も存在しなかった前5世紀古代ギリシアで、ペルシア戦争を記したヘロドトスとペロポネソス戦争を記したトゥキディデス。前者は魅力的だけど虚実織り交ぜて、後者は厳正だけど味気ないと、歴史の二つの面をそれぞれ代表していているようで面白い。ローマのキケロに”歴史の父”と尊称されながらも”嘘つき”とも評されていたヘロドトス、意外にも近代歴史学が分野を拡大させた20世紀に復権したとか。サラミス海戦の英雄テミストクレスを嫌って低評価とか。歴史のすべての要素を備えているヘロドトスはやっぱり歴史の父に相応しい。2020/03/12
in medio tutissimus ibis.
4
西洋歴史学の嚆矢とされるこの二人は、それぞれの問題意識によって各々の目撃した戦争に関する研究を著作した。ヘロドトスは雑多な伝聞を著作に盛り込み多少の脚色さえした形跡もあるため「嘘つき」呼ばわりされることさえあるが、前者のために知られる古代文化があり、後者の歴史切り取り方によって様相を変える事は今日の問題でもある。トゥキュディデスの抑制的な筆致は惑乱こそもたらさないものの、所々物足りなさを覚えさせられる。歴史学のなかった時代の歴史家の問題意識や手法の選択は新たな役割を担いつつある歴史学の手本となり得る。云々2018/07/10
Fumitaka
3
「歴史の父」ヘロドトスと「歴史学の父」トゥキュディデスの記述から、当時の慣習や情勢、また何を記述しないことによって筆記者の意図が見えて来るかなどを論じる。情報量は多いながらわかりやすい文体がありがたい。ヘロドトスの記述の中の客人関係とか、テミストクレスの碑文について捏造説があるが様々な証拠から真作説を採るというくだりが面白かったですね。そういえばギリシア人の客人関係はローマ時代のクリエンテラ関係と似たものだろうか。ローマ時代の方は「対等」ではなく明確に上下が決まった者同士の関係ではありますが。2023/03/29
サアベドラ
3
ヨーロッパ歴史叙述の父たる二人の史家とその作品を、近年の研究成果を紹介しつつ平易な文章で説明する。このレーベル全般に言えることだが、一般向けに概説に徹しているわけでもなく、かといってまとまった主張をしているわけでもないので感想に困る。2011/04/02
ハルバル
1
同じようにヘロドトスとトゥキュディデスを比較し歴史学の始まりを語るテーマなら個人的には 大戸 千之氏の 「歴史と事実―ポストモダンの歴史学」の方が面白かったです。たださすがギリシャ史家なので史料を読み解いてヘロドトスがなぜテミストクレスの功績を隠したか、トゥキュディデスが書かなかった歴史についてなど考察していて副読本として楽しめた。ただ「歴史」も「戦史」も読んだことのない方にはやはり前著をお薦めします。2015/01/10