内容説明
中央アジアが生んだ稀代の英雄ティムールは、「草原とオアシスの世界」に強大な帝国を築き、中央アジアと西アジアに新たな時代をもたらしたばかりか、はるか中国や西ヨーロッパ諸国とも交渉をもった。史上における存在感は鮮烈であり、後代に及ぼした影響は、はかり知れない。本書はティムールの生涯や事蹟を追うことに終始せず、彼が「モンゴル」の面影を色濃く残しながらも新時代のすぐれた指導者であったことを説明している。
目次
世界史上のティムールの存在感
1 ティムールの台頭とティムール朝の成立
2 征服活動の展開
3 イスラームとモンゴルの間で
4 為政者としてのティムールの功績
5 晩年のティムールにみられる変化
著者等紹介
久保一之[クボカズユキ]
1961年生まれ。京都大学文学部史学科(西南アジア史学専攻)卒業。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は西南アジア史学。現在、京都大学大学院文学研究科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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BIN
11
中央アジアの覇者ティムールの評伝。コンパクトながらボリュームはなぜか多く感じる。モンゴルとイスラムが組み合わさった感がよく見て取れる。軍事面で無敗であり、各地に侵攻していくのは良いのだが、地理的に馴染みがないから都度地図がほしいなあといつも思う。というか最大領域くらいかはあってほしかったなあ(その前の王朝とかはあるくせに)。やはりイスラム圏のカタカナの人名は覚えにくい。2018/10/27
ピオリーヌ
8
旗揚げ当初は10人程度の従者・騎士しかいない状態から、チャガタイ人と共に中央アジア全域に広がる大帝国を樹立したティムール。チンギス・ハーン家やモンゴルの伝統を重んじてハンを推戴しつつ、実権を握っていく姿には魅力が溢れる。騎馬民族特有の戦術や機動力に加え、陣形・部隊編成を効果的に変化させる柔軟さ、入念な情報収集や事前工作、それらが69歳で亡くなるまでの不敗神話を支えた。とりわけ、ニコポリスの戦いでヨーロッパ連合軍を粉砕した軍事的天才バヤズィト一世(オスマン朝)に完勝したアンカラの戦いの勝ちっぷりは鮮やか。2020/11/23
電羊齋
7
ユーラシア史のいわばメインテーマの一つである遊牧民・定住民間の関係が、ティムールの生涯を通じてうまく説明されている。また、ティムールとその帝国がムスリム定住民文化に馴染みながらも、モンゴル的要素も色濃く残していたことも紹介されている。良書。2015/03/29
MUNEKAZ
6
ティムールの評伝。彼の生涯のみならず、その背景にある中央アジア情勢やモンゴル的要素とイスラム要素についてもよくまとまっている。征服者としての側面も印象的だが、なにより遊牧民・イスラム・チンギス統原理と14世紀のユーラシアを代表する要素が一体となっているところにティムールの魅力を感じる。またティムール存命時から、自己の家系とチンギス=ハンの家系を対等とみる意識が生まれていたとするのは意外だった。2017/04/18
ジュンジュン
5
ティムールというと、チンギスハン(の後継者)とイスラームが融合したイメージ。実際はかなりモンゴル色が強く、「宗教は目的達成のための手段にすぎ」ず、「恐怖を統治の手段とみなし」て破壊と殺戮を繰り返した征服の人生だった。簡単にティムールの生涯を追えるが、イスラーム世界を知る常として、耳慣れない名称がネックになるが、コンパクトな本書でも例外ではない。2020/04/22