内容説明
メッカ巡礼(ハッジ)はムスリムの宗教的義務ではあるが、聖地メッカから遠く離れた西アフリカや東南アジアを出発点とした旅は一生をかけた命がけの旅であった。本書では、イスラーム世界を往来した多くの旅人たちの記録のなかでも、傑出した評価をもつイブン・ジュバイルとイブン・バットゥータが残した旅行記をもとに、人を異郷との交流に奮い立たせたものはなにか、旅を可能にしたイスラーム・ネットワークとはなにかを究めつつ、この二人の旅行を考えてみたい。
目次
イブン・ジュバイルとイブン・バットゥータの重要さ
1 イスラームにおける多様な旅の動機と目的
2 巡礼の旅を可能にした「交通」の条件
3 巡礼紀行文(リフラ)の発達
4 旅人が投射した視線
著者等紹介
家島彦一[ヤジマヒコイチ]
1939年生まれ。慶應義塾大学博士課程中退、文学博士。専攻、イスラーム世界交流史。東京外国語大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
15
イブン・ジュバイルとイブン・バットゥータという2人の大旅行者を狂言回しに、中世イスラーム世界の「旅」を紹介する一冊。地中海世界とインド洋世界を結び付けたイスラームの大征服は、イスラーム法という国際法にアラビア語という共通言語を生み出して、偉大な旅行者たちが活躍する背景を用意する。唐で活躍した阿部仲麻呂や現代のビジネスパーソンと同じく、多国間に普及した共通文化が国際人を生む土壌であることを再確認。またマグリブ出身の彼らが、東方のイスラーム教徒と触れあうことで、自らのアイデンティティを強化しているのも面白い。2021/05/25
金監禾重
7
前者はイベリア半島からメッカへ、後者はさらにモルディブや大都(北京)、ロシアなどアフロユーラシアをまたにかけた長大な行程の旅行記を記した。偉業は無論社会的背景に支えられたものである。アラビアに生まれ聖地巡礼を義務とするイスラム教は急拡大し、言語や法律を共有する「イスラムの平和」とも呼ばれる社会がイベリア半島におよんだ。域内では交易も盛んで、旅人を受け入れる環境が整っていた。学識のある人物は旅先で就職することもできた。イブン・バットゥータの時代には「モンゴルの平和」と接続された。人類史の奇跡と思える。2021/11/26
Toshi
4
マルコポーロから遅れること70年ではあったが、イブン・バットゥータは中国を訪れる。しかも中東から、インド、インドネシアと海を渡って。その頃日本は南北朝の時代。しかし僕らが習った世界史は=西洋史で、イスラムの功績は全く葬り去られている。本書はイブン・バットゥータとその更に150年前に広くイスラム圏を旅したイブン・ジュバイルの旅行記を紹介するとともに、当時のイスラム文化、歴史的背景を描く。いつかは読もうと思っている「大旅行記」のための入門書。次は同じ著者の「イブン・バットゥータの世界大旅行」かな。2020/10/27
中島直人
3
(図書館)読了。リフラという形態を生み出した背景を、マグリブという地域や時代の特性に見出す。2023/04/01
於千代
0
イブン・ジュバイルとイブン・バットゥータ、二人の旅行家(という表現が適切ではない気もするが)の旅行について考察した一冊。彼らがなぜ旅に出たのか、なぜ旅が出来たのかなどについて触れる。彼らのルートについても地図を併記しているので非常にわかりやすい。2014/01/07