内容説明
イスラーム思想史上最大の思想家といわれ、現代においても大きな影響を与えているガザーリー。信仰をゆるぎないものとする確実な知識を求めてスーフィズム(神秘主義)に回心した彼は、学者として最高の地位を捨て、放浪の旅に出たという。スンナ派のセルジューク朝とシーア派のファーティマ朝が対立する時代、ガザーリーの波乱万丈の人生をたどりながら、スンナ派思想の形成という観点から、ガザーリーの果たした役割をとらえなおす。
目次
イスラーム思想史上の巨人
1 ガザーリーとセルジューク朝
2 ニザーミーヤ学院時代の活動
3 スーフィズムの探究
4 ガザーリーと現代
著者等紹介
青柳かおる[アオヤギカオル]
東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻イスラム学専門分野博士課程修了。博士(文学)。専攻、イスラーム思想史。現在、新潟大学人文社会・教育科学系(人文学部)准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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有沢翔治@文芸同人誌配布中
6
アル=ガザーリーは哲学、スーフィズムなどを経て、十一世紀、スンナ派の教義を体系づけた。その教義は現在イスラーム世界のみならず西欧にもアルガゼルの名前で影響を及ぼしている。確実な信仰を追い求めて、学者の地位を捨てたのだった。イスラーム思想史から、また世界史の流れからガザーリーを捉える。http://blog.livedoor.jp/shoji_arisawa/archives/51513201.html2020/06/03
ハンギ
2
スンナ派思想の大成者としてのガザーリーという位置づけながら、神秘主義への傾倒後についても扱ってて面白いなあと思いました。ガザーリーは西欧では哲学者と誤って伝わったそうだけど、本当はウラマー学者という、イスラム法に通暁している人間で、哲学を批判した人物。イスラム哲学はそれまでは新プラトン主義の影響にあったらしい。学院で教えていたが、ある日を境に神秘主義、スーフィーに耽溺。現代への影響もあるそうで、女性は避妊できるが、中絶はできない、という認識を示したそうだ。現代のスンナ派はもう少し寛容らしいが。2014/06/04
sovereigncountr
1
本書は、ガザーリーの生涯を追いながら、イスラム思想史を概観しつつ今日における影響までを論じた野心的な一冊である。思想史部分はやや難解であるが、極めて手際よくまとめられている。2024/01/05
蟻
1
二大聖典であるクルアーン、ハディースに続きファトワーで引用されるイスラーム思想の権威、ガザーリーの思想とその背景をコンパクトにまとめた一冊。現在はワッハーブ派等の影響で想像しにくいが、スンナ派古典思想がいかにスーフィズムと深い結びつきがあったか理解できる。法学や神学などの宗教諸学はスーフィズムによって息を吹き込まれると考え、その思想を理論化し、当時の知識人には認められていなかったスーフィズムに市民権を与えた。しかし、彼の女性論はなかなか強烈。曰く「女性はいつも家にいて糸紡ぎをしているべきである」2016/04/13
牛タン
1
内容:1章ガザーリーの時代背景(アッバース朝・ブワイフ朝・セルジューク朝における思想の変遷)、2・3章ガザーリーの思想(『ムスタズヒルの書』におけるシーア派批判、『意図』『自己矛盾』などの哲学批判、『中庸の神学』における存在論、『誤り』『再興』『高貴な目的』『壁龕』などにみられる後世の神秘主義への傾倒)、4章現代からみたガザーリーの女性観。感想:ガザーリーの著作の下準備として読んだ。100Pにも満たない薄い本だがわかりやすくまとまっている。副題にもあるように古典スンナ派思想形成の理解の一助ともなりそう2015/12/28