内容説明
古代共和制の伝統の名残やキリスト教世界の理念が展開するなか、中世イタリアの都市民は、本来の理想を完全に放棄せず、遵守もせず、抜け道を探してさまざまな制度やシステムを生み出し、そして活用した。そこには矛盾や欺瞞が満ちているが、広い世界に躍進しようとする気質、たくましさが鮮やかに浮かび上がって見えてくる。中世イタリア都市の制度やシステム、その利用者としての都市民を描くなかで、彼らの行動原理や都市社会の魅力を語っていこうと思う。芸術面に限らない彼らの創意工夫の歴史の一端を、本書を通じて読者は垣間見ることができるだろう。
目次
中世イタリア都市の魅力
1 コムーネの登場
2 公平性の原理と諸制度の展開
3 中世都市の財政と市民生活
4 都市の向こうの中世イタリア都市民
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
chang_ume
11
中世イタリアのコムーネ(自治都市)の成立と展開について。フィレンツェ、ヴェネツィア、ジェノヴァの三都市を中心に語られますが、それらの多元的なあり方は魅力の反面、概説となるとやや見通しが得にくいかもしれない。そのなかで楽しく読んだ項目としては、やはり都市民の生活実態に焦点を置いた社会史的側面。とりわけ、中世後期フィレンツェの累進的な直接税「カタスト」史料の分析を通じた、「寡婦」比率の高さなどの歴史人口学の知見は、中世都市のリアリティを感じさせてよいですね。2020/03/17
サアベドラ
6
中世イタリア都市の入門書。コムーネの行政・財政制度、それに半島外でのイタリア商人の活躍などについて概説。全体的に文章が怪しい。「盲点をかいくぐり」や「ようすが判明する」など、なんとなく意味はわかるけど変な言い回しが頻繁にでてきて、読んでいて頭がクラクラしてくる。一応、著者は東大で博士号を取っている人なのだけれど。2013/02/10
ジャケット君
5
ローマ解体からリソルジメントまでの空白を埋めたいと思い読んだ。フィレンツェ、ピサなどの都市国家の法制、税制、婚姻慣習をふーん。政務官のコンスルを選出する際に平等な抽選や追放刑の罰則。公平性を担保するため努力してるなと思いきやその平等の内には限られたコムーネの人々にしか適用されてない2024/02/29
figaro
3
イタリアの中世都市は、コムーネといわれる自治権を獲得していく点では共通しているが、古代ローマの遺産、ビザンチン、教皇・皇帝との関係などから、統治形態にも商業形態にも多様性があり、一括りにするのは難しい。この本は、中世各都市の共通点と相違点をコンパクトに描いてみせる。それでいて、塔の屹立する中世前期の町並みを残すサン・ジャミーノ、ドージェやプリオーリ選出の複雑な仕組みを示す袋、ソドミー規制、フィレンツェのカタストなど、中世イタリア人の生活ぶりをうかがう細かな資料への道案内にもなっている。良書だと思う。2019/09/15
kaeremakure
2
コムーネの成立事情、行政・財政システム等について、ヴェネツィア、フィレンツェ、ジェノヴァといった個性の強い都市ごとの事例が紹介されているので便利(メディチ家の権力奪取過程とか、フィレンツェの話が多めですが)。著者の亀長洋子さんには『物語ジェノヴァの歴史』みたいな本も書いてほしい。13世紀のトマス・アクィナスが「自然に反する悪徳」を重視した影響で男色が犯罪化したってのは知らなかったが、ヴェネツィアで男性間の風紀取締りのために作られた「ソドミー専従班」って、むしろソドミーに耽ってそうに聞こえるのは自分だけ?2014/12/21