内容説明
13~14世紀のユーラシアを席巻した巨大遊牧帝国に対し、朝鮮半島の人びとは、個人またはさまざまなレベルの集団で、柔軟かつしたたかに生き抜く道を模索していた。それは「抵抗か、さもなくば屈従か」という単純な二分法で理解できるものではない。厳しい国際環境の制約下で自己存在の定立をはかろうとする姿の複雑さと巧みさは、時代と地域を超えた普遍性につながる朝鮮史の醍醐味のひとつである。
目次
朝鮮史における「タタールのくびき」
1 モンゴルの侵略と元との講和
2 日本経略と対元関係の変化
3 世界帝国のなかの高麗王
4 国内政治空間の変容
5 「混一」時代の国際交流
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サケ太
17
モンゴル帝国の支配の実際、という以前読んだ本の補強になる内容。朝鮮半島の戦いと和平、文化的な勃興。高麗の史料が残されているので、当時の情勢下での立ち振る舞いや、元の中での栄達、その変遷。日本という国の立場。倭寇の脅威。様々な出来事や戦力に翻弄されつつも強かに生き抜いた歴史というのは非常に面白い。2020/10/02
MUNEKAZ
16
モンゴル帝国の支配下にあった高麗国の実相をコンパクトにまとめる。数度にわたる侵略、三別抄の乱、2度の日本遠征と高麗の民にとって地獄のような時期だったが、同時に歴代の高麗王はモンゴル王家の姻族、征東行省の丞相、朝鮮半島の君主という3つの仮面を使い分けて命脈を保った。これを「強か」とみるか「事大主義」とみるかは人それぞれだが、朝鮮半島にある独自の王国という枠組みを守りきったことは、評価すべきなのであろう。また「敵国」日本の存在が、大帝国の東辺を守るという高麗王国の存続意義に使われていたのも面白い。2023/02/28
サアベドラ
4
著者は朝鮮史の専門家で、内容はモンゴル時代の高麗の政治史および外交史。モンゴルが本腰入れて攻めてきたらさっさと離島に逃げ込んで国民を見殺しにし、服属後は日本をダシに侵略の矛先を半島から逸らし、ちゃっかりモンゴル王室に取り入って政体を維持する。著者はこれを優れた政治感覚と肯定的に評価するが、「事大主義」を地で行く感じで読んでいてあまりいい気分はしなかった。解散を命じられた軍が既得権益の維持を求めて起こした反乱(三別抄の乱)が後に愛国主義に結びついてしまうところが、朝鮮民族らしいというかなんというか。2013/02/17
Rieko Ito
3
薄いリブレットシリーズだが、朝鮮半島の歴史について無知だったので、いろいろ学べた。 高麗には代々元の公主が降嫁した。支配層の子弟は人質(トルガク)として元朝宮廷に送られ、親衛隊(ケシク)に加わり、帝国支配層としての薫陶を受けた。支配層の童女が元に献上され奇皇后の一族のように権勢を得ることもできた。 複雑でしたたかな国際関係は、島国の日本とはまるで異なるもので、非常に興味深かった。本書では庶民レベルでのことはほとんど触れられていないが、そのあたりも知りたい。 2023/07/12
時雨
1
モンゴル時代の高麗といえば、外敵の猛攻に屈服しただけではなく文永・弘安の役で遠征軍の案内役を務めたということもあって、日本側の一般的な印象はあまり良くない。しかし朝鮮史・東アジア交流史を専門とする筆者は、当時の高麗の外交姿勢を「硬軟両面にわたり強かで弾力性に富む国際対応」と高く評価し、13~14世紀を中心とする朝鮮半島史を概観する。日本を念頭に置いた東辺の防衛、王室間の通婚。複層的な構造の中を巧みに立ち回りながら、自国に有利な生存環境を勝ち取っていく様子の描写は面白かった。100頁足らずだが内容は濃厚。2020/11/28