内容説明
中東イスラーム世界では、中国や日本よりも多くの種類の農書が書かれた。土壌の選定からはじまり、地域の事情にあわせて、穀物、野菜、果樹、ハーブなどの栽培法が詳細に書かれた農書は、乾燥地の農業のあり方、塩害などの環境変化への対応法、都市と周辺世界の食糧生産の状況を、われわれによく伝えてくれる。農書や農書の写本をつうじて、事件史とは違う、ゆっくりと変化する歴史の姿をみなおしてみよう。
目次
文字文化・非文字文化と農書
1 農書の成立ち
2 農書を読む
3 乾燥地と乾燥地農業
4 農書から広がる世界
5 農書写本の世界
著者等紹介
清水宏祐[シミズコウスケ]
1947年生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専攻、イラン史・トルコ民族史。現在、九州大学大学院人文科学研究院教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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うえ
10
「『農業便覧』の冒頭部分では、農業の尊さを説いた箇所がある…「人が生きていくのに必要なものが四つある。「農業」「職人たちの技」「諸王、諸支配者たちの統治と権威」「ウラマーの学問」である。しかし、ほかの三者が生きていくためには、農民が必要であり、農業がなければ、すべてのものは、存在しえなくなる。それゆえ、農民は、あらゆる職業の人びとよりもよきものである。ハディースにも、「最上の人間とは、他人の役に立つ者である」とある。種を播き、アッラーフを信頼して収穫を期待するという行為そのものが…敬虔なものなのである」」2020/03/13
ジャケット君
4
・農書がその文明の農業をいかに躍進させるものか。農家の経験論だけで一家、コミュニティの相伝で伝えていくのではなく体系化して文字に残す。そしてその言語を通じて方法論は遠い異国の地にも伝播する。意義深いものではないか ヨーロッパの科学、農業文明諸々イスラームを経由して伝わったものでありイスラーム文明に着目すべきではある。ただ、生まれついてからの都市消費者であるため、農法や栽培法の知識は分からなかった。短期バイトでなんでもいいから農作業してみたいな2023/06/13
ぽんすけ
3
農書というと宮崎安貞の「農業全書」しか知らないので、イスラームの農書というだけで興味深かった。こういう農書がイスラーム世界のあちこちで書かれており、写本も多数見つかっているというのは、アラビア語が公用語として確立しており、大勢の人々が読んで理解することができたという事実があってこそだと思う。又都市農業と郊外農業の区別があり、都市近辺ではカナートなどを利用した野菜の灌漑農業、郊外では大規模な農地を必要とする穀物の天水農業と育成する作物が違っていたのも面白い。その違いには塩害の影響の有無があったようだ。2020/12/24
sovereigncountr
1
前近代において、政治・社会経済の基盤となったのは農業であり、農業の理解は前近代史を考える上で避けがたい。しかし、往時の農業の実態を知ることは史資料の制約から容易でない。農書という切り口を示した本書は、この難題に示唆を与える良書といえよう。2023/06/18
150betty
1
(☆3)カナートやらイスラム世界の具体的な農業の方法論について知りたかったのだけど、表題どおりに“農書”、つまり農業に関する本に関する本だった。あんまり外国の農書は読んだことないのだけど、ブドウに関してもどの時期までは水をやってどの時期からは水を控えめにしろとか、数百年前からそんな知識があるのね。。2014/11/22
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