内容説明
なぜ人間の脳は、(現行の)コンピュータより学ぶのが得意なのだろう?まわりの人の顔をおぼえたり、母語の発音をおぼえたり、数字の記号をおぼえたりするとき、脳のなかでは何が起こっているのか?数学・読字・意識など、脳の各種能力について数々の発見・新理論を築いてきた神経科学者が、そのすべてを包含するテーマ「学習」に挑む。
目次
第1部 学習とは何か(学習の七つの定義;今のマシンより脳の方がうまく学習する理由)
第2部 脳はいかにして学習するか(赤ちゃんの見えざる知識;脳の誕生;育ちの出る幕;リサイクルする脳)
第3部 学習の四本柱(注意;能動的関与;誤りフィードバック;定着)
教育と神経科学の協調
著者等紹介
ドゥアンヌ,スタニスラス[ドゥアンヌ,スタニスラス] [Dehaene,Stanislas]
コレージュ・ド・フランス教授、NeuroSpin(フランスのサクレーを拠点とする脳画像化の研究所)所長。大学で数学を学んだのち、心理学でPh.D.取得。脳画像化研究の第一人者であり、とくに数や言語を扱う脳の能力、また意識に関わる研究で多くの業績を上げてきた
松浦俊輔[マツウラシュンスケ]
翻訳家。名古屋学芸大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Isamash
27
スタニスラス・ドウアンヌ・コレージュ・ド・フランス教授の2020年著作訳本。学習に関する脳科学の最新知見が分かりやすくまとめられ感激。睡眠中に昼間に学習されたことが脳内でリピートされ記憶として定着する、長期的にまとまって学習するよりも短期間繰り返し学習したほうが記憶されやすい、効率的学習方法はヒトそれぞれでなくほぼ常に視覚は聴覚より上回り両方の組み合わせは更に効果的、或いはテストは記憶するのにとても有用といったことを、実験結果を引用して紹介。好奇心を育む能動的学習の意義強調し、他人と比較の評価にダメ出し。2022/05/31
りょうみや
25
最新の脳科学とAIの知見を踏まえて教育心理学を語る内容。脳の解説で神経科学とAI(ニューラルネット)を常に対比させているのが特徴的。AIにない脳の深さが分かるしAIの学習モデルから脳の理解も進む。人間の脳は誕生時に白紙ではなく人それぞれということもなく発達の方向性は最初からほぼ組み込まれている。なので脳科学を基にした本書の学習理論は全ての人に当てはめることができるという主張。言語、数学の脳による理解の解説は著者ならでは。読み応えのあった一冊。2022/03/05
センケイ (線形)
11
自分の学習のされ方を知るのは便利なもので、特に誤りを検出する重要さや、根を詰めすぎない重要さなどはさっそく活用できそうに思う。デフォルトで備えている認識の仕方なども興味深くて、赤ちゃんが動物や動くボールなどに対してあらかじめ直感を抱いているという話には惹きつけられた。相手のかたがこうした話題が苦手でなければ…お子さんをお持ちのかたとの話のネタにもなるとは思う。2022/12/29
Haruki
9
注意、能動的な関与、誤りフィードバック、日中のおさらいと夜間の定着、の四本柱を学習の普遍的アルゴリズムと見る。メンタルモデルのパラメータ調整、パターン認識、誤差最小化、可能性探索、報酬関数の最適化、仮説の投影、が脳科学的学習の輪郭。数覚、弓状束(言語ハイウェイ)、記憶=神経発火パターン再生、シナプス過剰生産と刈込み、可塑性の年齢依存性、短期はリサイクル仮説、選択的注意、文化ラチェット、意識的感知が記憶波を増大、学習は相関連合ではなく予測誤差、保持期間の2割間隔で復習、夜間の倍速再生で定着等が興味深い概念。2024/08/18
鴨長石
7
人間の学習について最新の知見がまとまっている。注意・能動的関与・誤り訂正・定着の4本柱による人間の学習は、現時点では圧倒的にAIより勝る。著者の研究テーマのニューロンリサイクルが本当なら、脳の可塑性と合わせてますます人間の脳の優秀さが露わになるだろう。一つ驚いたのは、同じ科目を複数回組み込む時間割や定期テストなど、現在の学校における標準的システムが、かなり最新の研究にマッチするということだ。人類の何らかの直感や経験値により成立してきたに違いなく、抜本的改革を行うにしても既存のやり方を軽視できないと思う。2021/07/08