内容説明
足利直義(一三〇七~五二)南北朝期の武将。兄尊氏を補佐して室町幕府の基礎を固めるものの、高師直らと対立して観応の擾乱をもたらした足利直義。本書では、後世の評価が劇的に変化してきた直義の、とくに政治家としての事跡を辿り、その実像を明らかにする。
目次
第1章 直義の出自(鎌倉時代の足利氏;妾腹の子)
第2章 元弘と建武の戦い(建武政権下の足利直義;建武の戦乱;建武争乱期における尊氏・直義の文書発給状況)
第3章 「天下執権人」足利直義(尊氏・直義の「二頭政治」;幕府執事高師直との対立)
第4章 直義主導下における幕府政治の展開(宗教政策・文化事業;公武徳政政策;その他の治績)
第5章 観応の擾乱(高師直との激闘;束の間の講和;尊氏との死闘;直義死後の室町幕府)
著者等紹介
亀田俊和[カメダトシタカ]
1973年秋田県生まれ。2003年京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。2006年京都大学博士(文学)。日本学術振興会特別研究員を経て、京都大学文学部非常勤講師。専攻は日本中世訴訟制度史の研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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六点
15
『観応の擾乱』で文名を高めた気鋭の研究者による評伝である。現代人の間尺では取り扱い難いスケールを持った一代の英傑の生涯を魅力的に描いている。教養は高く理知的、芝居がかった挙措が好き。責任感も強く戦争そのものについても強い。研究者も含めファンが多いのも宜なるかなという感想を抱いた。そうだったからからこそ、高師直に不満を持つ連中の旗頭とならざるを得なかったのだろう。そのくせ、尊氏をを追い詰めればヘタれる所が、人間味を感じさせる。しかし、これだけの叙述をできる研究者が国内で研究職に付けないとは、損失である。2019/08/06
鯖
15
ファーストインプレッション直義が、子どもの頃に見た大河の太平記の高嶋政伸だっただけに、熱くてお兄ちゃん子で、妙にお人好しで…、というその印象が書物で記されている「冷徹なマキャベリスト」とどうも結びつかず首をひねったものだけれど、この本を読んで、ある意味一周したというか、二つのイメージがつながった気がする。奥方の無事の出産を願うあまり、背中に出来物ができて産所を見舞うことができなかったというエピが完全に高嶋さんで再現される。そして背中の出来物というところに兄の死因を思い出して、業のようなものも感じてしまう。2017/03/20
浅香山三郎
13
鎌倉末から南北朝期の研究書や評伝がこの数年かなり多く刊行された。本書の著者も『観応の擾乱』(中公新書)以来、この流れの中心にをり活躍してゐる。高一族の研究と同じく堅実で、尊氏・直義兄弟の庶子としての生立ち、光厳上皇との親密さ、対南朝和平交渉への積極性など、これまで余り知られてゐなかつた点にも光を当てる。荘園領主層の権利擁護や裁判機能の整備に取り組む一方、恩賞を与へる権限は尊氏が保持したが、これは後に擾乱の一因ともなつた。擾乱に際して味方になつた武士らへの恩賞給付にも失敗し、いい加減だが柔軟性のある尊氏に↓2021/10/09
bapaksejahtera
13
著者の本は吉川弘文館「高師直」に続く。この時代の歴史が徐々に頭に入ってくる。直義については南朝史観によって偏頗した評価が戦後極端に好意的な方向に振れたのに対して本書ではより妥当な分析を試みているようである。しかし直義無くして室町幕府の成立は困難であり、特に政治制度の確立や武士団の利害をその後の近世武家体制確立の方向に向けた功績は大きいのだろう。この時代に珍しい論理的な教養人として夢窓疎石と法理問答を交わしたことも興味深い。尚南朝擁護の強い太平記の改訂に接しながらこれに強い容喙を避けた点も想外の驚きだった。2021/09/19
さとうしん
11
従来の謹厳実直な政治家としての足利直義の姿とともに、高師直の排除や、観応の擾乱の際に南朝への降伏という禁じ手を創出した点など、目的のために手段を選ばないという一面や、政治に無気力になった晩年なども描き出している。また、兄の尊氏についても、従来は躁鬱症だったのではないかともされていた彼の不可解な行動に一貫性を見出し、合理的な解釈を施しているのも注目される。直義個人の評伝というよりは尊氏・直義兄弟二人の歩みとして面白く読んだ。2016/11/22