内容説明
「私」とは誰か?一人称形式の小説を読み解くさいの鍵となる「異化」作用について、イギリス小説を中心に考察する。語り手の設定によって創造された虚構の世界では、人間の在り方にどのような新しい光が当てられ、いかなる実相が照らし出されるのだろうか。本書は、死者や怪物、動物をはじめ、さまざまな「私」の物語世界へと誘う。
目次
序 小説と異化作用
第1章 一人称小説の伝統と機能
第2章 不思議の国の「私」―スウィフト『ガリヴァー旅行記』
第3章 「私」は死者―フィールディング『この世からあの世への旅』
第4章 「私」は怪物―メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』
第5章 「私」は超能力者―ジョージ・エリオット「引き上げられたヴェール」
第6章 「私」は動物―アンナ・シューエル『ブラック・ビューティ』
結び 語り手の設定―一人称小説の可能性
著者等紹介
廣野由美子[ヒロノユミコ]
1958年、大阪府に生まれる。1982年、京都大学文学部(独文学専攻)卒業。1991年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程(英文学専攻)単位取得退学。学術博士。英文学、イギリス小説を専攻。1996年、第4回福原賞受賞。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あきあかね
22
虚構という形式を借りて現実以上の真実を見せる、小説というもの。特に著者は、普段見慣れたものを「見慣れないもの」として表現することで、認識に揺さぶりをかけ、ものの本質に触れさせようとする技法、「異化」に注目する。一人称形式により、語り手の特異で主観的な視点を導入することで、新規なものの見方を通して人間の世界を描き、日常化した世界、人間の在り方に新たな光を当てるという。 本書は第一章では、一人称小説の伝統を概観し、第二章以降では、様々な「異界の語り手」が現れる小説における異化作用を解き明かす。⇒2021/11/24
まろすけ
6
んー、タイトル負けかな。著者の論考が少なく、各小説の粗筋と解説でだいぶ紙面を割かれちゃってる。⚫芸術は、「見慣れないもの」として知覚を手間どらせること。認識のプロセス自体に美的目的があり、それを長引かせなければならないから⚫シクロフスキーの『異化』。普段見慣れたものを見慣れないものとして表現することで認識に揺さぶりをかけ、本質に触れさせようとする技法⚫詩的な言語表現も、日常的実用的な言葉との断絶により新奇なものの見方を提示する。⚫三人称より、偏った視点の一人称の方が、新奇なものへの反応を強調しやすい。等。2018/05/24
eirianda
4
そう言えば、最近の作品で三人称、神の視点で書かれたのをあまり見ない。一人称が多いように思う。殆ど内容は英文学の一人称作品の異化という表現方法を通した作品解説だった。視点を掘り下げたものではない。フォークナーの『響きと怒り』に興味が湧いた。あとガリヴァーも児童向けに書かれた内容しか知らない。色んな異界の冒険譚と思っていたが、人間不信に陥ったスウィフトを投影した物語だとは…。解説読んでからの古典読みも結構面白いかもしれない。2015/03/08
nranjen
3
小説の異化という作用に着目し、自伝とは異なる少々癖のある一人称を用いた作品の分析を行った本。自伝とは比較的近い回想や日記なども語り手が語った「時」と物語の「時」とは時間の経過が存在することは確か。小説における一人称「私」は、死者、怪物、超能力者、動物であったりというバラエティーに富んでいる。コラムの話も面白い。2021/03/21
amanon
3
タイトルに反して、殊更一人称ということに拘っている感はないが、かなり興味深く読めた。一人称で綴られる小説のストーリーや構成、そこに潜む著者の意図をわかりやすく読み解いていくその語り口は、端正で嫌味がなく、好感が持てる。取り上げられている作品のうち、既読のものはもちろん、未読の作品も殆ど違和感がなく、その作品世界に入り込んでいける。それだけ著者が諸作品を緻密に読み込んでいっているいうことだろう。また、有名作品だけではなく、一般にあまり知られることのない作品の隠された魅力を引き出してみせるのも心憎い。2016/11/26