出版社内容情報
追求すべき価値や正義とはどんなもので、その実現のためにどんな手段をとるべきか。このような「規範的な問い」は、人間の生き方にかかわるきわめて重要な問題である。人間が集まれば政治的共同体ができ、その政治的共同体にとっての規範的問いを検討してまとめあげれば、政治理論となる。
ヒト以外の動物との関係を一切もたない人間集団は地球のどこにもない以上、その関係についての規範がいる。つまり政治的共同体はその他の諸問題と同様に、動物と人間との関係をいかに律するか、なんらかの立場を表明しなければならない――これが本書の問題意識だ。
だが事実、政治思想史において、動物の地位の問題はおおむね無視されてきた。いまの世界で、動物たち、とくに家畜や実験動物たちが悲惨そのものの現状におかれている大きな原因は、国家をはじめとする政治的共同体の規範に「動物のための正義」の影が薄いことにある。
本書では西洋政治思想史を概観したのち、功利主義、リベラリズム、共同体主義、マルクス主義、フェミニズムと、現代の主要な政治理論を個別に取り上げ、動物のための正義にまつわる議論を紹介する。終章では、著者が最有力と考える理論を提案する。
政治思想史上、現在ほど動物のための正義の議論が盛んだった時期はない。本書は、その現在地と進むべき生産的な方向を明瞭に示す、みごとな入門書である。
【目次】
謝辞
1 序論――動物と政治理論
2 政治思想史における動物
古代の政治理論における動物/中世キリスト教政治理論における動物/近現代の政治思想における動物/結論
3 功利主義と動物
動物の解放についてのシンガーの功利主義理論/シンガーの理論に対する保守的批判/シンガーの政策提言に対する批判/シンガーの理論に対する急進的批判/結論
4 リベラリズムと動物
ロールズの契約における動物の除外/リベラルの多元主義は動物にとって何を意味するか/契約の修正による動物の地位向上/人格の概念の修正による動物の地位向上/人格性と福祉の重視/結論
5 共同体主義と動物
共同体主義理論で動物のための正義を擁護する/個別主義/社会の価値観の定義/不公平性/共同体の定義――多文化主義と動物/結論
6 マルクス主義と動物
唯物史観における人間と動物の不連続性 /ブルジョワの道徳としての動物の権利/疎外され搾取される集団としての動物/「各々へその必要に応じて」/動物のための正義を政治的に達成する/結論
7 フェミニズムと動物
動物と女性の抑圧と解放のつながり/理性の誤り/動物のための正義へのケアベースのアプローチ/結論
8 結論
主要学派の貢献/功利主義とリベラリズムの金言/現代政治理論と動物
索引/原注/参考文献
内容説明
動物という、感覚と利害関心をもつ存在を政治理論はどうとらえているか?主な理論を精査し、われわれがかれらに負う義務と責任、そして正義を探究する。
目次
1 序論―動物と政治理論
2 政治思想史における動物
3 功利主義と動物
4 リベラリズムと動物
5 共同体主義と動物
6 マルクス主義と動物
7 フェミニズムと動物
8 結論
著者等紹介
コクラン,アラスデア[コクラン,アラスデア] [Cochrane,Alasdair]
シェフィールド大学政治・国際関係学部教授。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)でPh.D、PGCHEを取得。LSEで、人権学のフェロー、講師を務めたのち現職。専門は、現代政治理論、権利理論、人権、環境倫理、動物倫理、生命倫理。研究の関心として、収監の倫理、動物の権利に対するコスモポリタン的アプローチ、人権にまつわる人間中心主義、地球規模の食の正義などがある
的場知之[マトバトモユキ]
翻訳家。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科修士課程修了、同博士課程中退(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。