出版社内容情報
内容説明
「ハッピクラシー」は「幸せHappy」による「支配‐cracy」を意味する造語。誰もが「幸せ」をめざすべき、「幸せ」なことが大事―社会に溢れるこうしたメッセージは、人びとを際限のない自己啓発、自分らしさ探し、自己管理に向かわせ、問題の解決をつねに自己の内面に求めさせる。それは社会構造的な問題から目を逸らさせる装置としても働き、怒りなどの感情はネガティブ=悪と退けられ、ポジティブであることが善とされる。新自由主義経済と自己責任社会に好都合なこの「幸せ」の興隆は、いかにして作られてきたのか。フランス発ベストセラー待望の翻訳。
目次
第1章 あなたのウェルビーイングの専門家
第2章 よみがえる個人主義
第3章 仕事でポジティブであること
第4章 商品棚に並ぶ幸せなわたし
第5章 幸せはニューノーマル
結論
著者等紹介
カバナス,エドガー[カバナス,エドガー] [Cabanas,Edgar]
マドリード自治大学で心理学の博士号を取得後、マックスプランク人間発達研究所感情史センター研究員を経て、現在カミロ・ホセ・セラ大学(マドリード)教員
イルーズ,エヴァ[イルーズ,エヴァ] [Illouz,Eva]
ヘブライ大学社会学教授。フランス国立社会科学高等研究院教授。2022年6月にはケルン大学アルベルトゥス・マグヌス教授にも就任
高里ひろ[タカサトヒロ]
翻訳家。上智大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
83
幸せhappyによる支配cracyを意味するハッピークラシー。幸せの追求が、個人を終わりなき自己形成のプロセスに従事させ、幸せを求める人々の貪欲さと継続的な消費に結びついていることを論じている。その批判の対象は、幸せの科学を広く産業界まで浸透させたポジティブ心理学。またその周辺のレジリエンス、マインドフルネス、コーチング、自己啓発、感情コントロールなどにも言及する。著者らの主張は、「幸せに反対するわけではないが、幸せの科学が説き広める『いい人生』という還元主義的な考え方には反対」するというもの。→2023/07/01
踊る猫
38
これはこのぼく自身の安易な人生観・倫理観の寝首をかくクリティカルな1冊だと唸る。ぼくもまた心のどこかで(多分にフランクル的に)自分の心の持ちようにこそ「幸せ」の源泉を見出していたのだけど、肝心の「では、その『幸せ』とはそもそもどう定義づけられうるものか」が問われないままイージーに「幸せ」を蜃気楼よろしく追い求め続けてむなしく生きているのが実態かもしれないな、と本書の議論を追いつつ思ってしまったのだ。この本から見えてくる、個人の私的な領域としての「幸福観」までもが「専制」の対象となる実態について考え直したい2024/04/07
りょうみや
25
ポジティブ心理学とその周辺を社会学的に眺める内容。ポジティブ心理学、その研究者達が経済的・政治的にここまで影響力を持っていることを知らなかった。ポジティブ心理学における「幸せ」の概念ほどあからさまに新自由主義のイデオロギーに沿ったものはないと言う。環境・社会の影響を軽視し、絶え間ない自己成長こそが幸せの源、そうなれないのは個人の責任ということになる。本来は幸せは生きるためのセンサーで、手段が目的化し過ぎということだろう。前提となる心理学的な知識は多いけど、この本がベストセラーになるフランスはすごい。2023/07/30
ロア
17
健康で普通な人々というこれまで未開拓だったターゲット市場を発見!そこにポジティブ心理学をぶち込みます。24時間365日とにかく常にポジティブ思考強制です。ネガティブなことは微塵も思っちゃいけません。『笑顔の絶えない家庭』『笑顔の絶えない職場』みたいなおぞましさを感じるな(*´ω`*)2023/08/28
タカナとダイアローグ
17
常に「物足りない」感情を煽り成り立つ自由主義(資本主義)から、常に「もっと幸せであるべきだ」と煽る新自由主義へ。この主義とポジティブ心理学が理想としている人間像が一致していることを暴く本。幸せという定義不可能なものは各々がイメージして目指すことができるので、貧富の差による問題を隠す。階層社会も肯定できるだろうし、個人主義の理想を実現できる燃料になる。結に述べられていた感情機械(ノージック)、ハクスリーの描いたディストピアすら肯定可能な思想。マズローのピラミッドを逆さにしているという指摘は痺れた。2023/07/27
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