出版社内容情報
〈ローマ帝国の歴史の中で決定的な転回点が起こったのは、善き意志をもった男女がローマの支配を支えるという仕事から身を引いて、礼節と道徳共同体との存続を、その支配の維持と同一視することを止めたときであった。彼らがその代わりに達成しようと努めたのは、道徳と礼節がともに、来たるべき野蛮と暗黒の時代を生き抜くことができるために、その内部で道徳生活を支えられる新しい形態の共同体を建設することであった。もし私たちの道徳状況についての私の説明が適切ならば、私たちも今やここしばらくの間にその転回点に到達してしまったのだと、やはり結論すべきである。そしてもし諸徳の伝統があのかつての暗黒時代の恐怖を生き抜くことができたのならば、私たちに希望の根拠がまったくないわけではない。しかしながら今回は、蛮族は国境の向こうで待っているのではなく、すでにかなりの期間私たちを支配し続けている。そして、このことに対する私たちの意識の欠如こそが、現在の苦境をある部分形づくっている。今私たちはゴドーをではなく、もう一人の--疑いもなくきわめて異なった--聖ベネディクトゥスを待望している。〉
個人主義は生き残れるのか? 西欧近代を相対化しつつ、今を生きるとはどういうことか? 現代の道徳的危機の系譜をたどり、新たな共生の場を探った、現代の古典。
内容説明
個人主義は生き残れるのか?今日の道徳的危機の系譜をホメロスの時代より読み直し、新たなる“共生”の場を探った現代の古典。
目次
一つの不穏な思いつき
今日の道徳的不一致の本性と情緒主義の主張
情緒主義―社会的内容と社会的文脈
先行の文化と、道徳の正当化という啓蒙主義の企て
なぜ啓蒙主義の企ては失敗せざるをえなかったのか
啓蒙主義の企ての失敗がもたらした諸結果
「事実」、説明、職人芸
社会科学における一般命題の性格とその予測力の欠如
ニーチェかアリストテレスか?
英雄社会における諸徳
アテナイでの諸徳
アリストテレスの徳論
中世のいくつかの局面と事情
諸徳の本性
諸徳、人生の統一性、伝統の概念
諸徳から徳へ、そして美徳なき時代
徳としての正義―諸概念の変遷
美徳なき時代―ニーチェか、アリストテレス、トロツキーそして聖ベネディクトゥスか
著者等紹介
マッキンタイア,アラスデア[マッキンタイア,アラスデア] [MacIntyre,Alasdair]
1929年スコットランドに生まれる。ロンドン大学卒業。オクスフォード大学、エセックス大学などで教え、1970年にアメリカに移住。ヴァンダービルト大学などを経て、1989年から1994年に至るまでノートル・デイム大学(インディアナ州)、1995年からデューク大学(ノースカロライナ州)の哲学科教授
篠〓榮[シノザキサカエ]
1947年鎌倉市に生まれる。東京大学文学部哲学科卒業。同大学院博士課程修了。熊本大学文学部教授、倫理学専攻。2012年定年退職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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