出版社内容情報
1970年冬のニューヨーク、再開発で立ち退きを迫られながら、新作完成まではと居座るユダヤ系作家レサーはたったひとりの住人(テナント)のはずが……空き部屋から聞こえるタイプライターの音。もうひとり、だれかが書いている! 黒人ウィリーとの物書き同士の凄惨な対決がはじまる。激動の時代にマラマッドが挑戦したサイケデリックな異色作を、半世紀後の今日に向けて初紹介。
「『テナント』はアメリカの文学の歴史においてターニングポイントになっており、文学にアイデンティティー・ポリティクスが台頭してきたこと、〈純粋芸術〉の可能性への信頼がなくなってきたことの始まりを示している」(アレクサンドル・ヘモン)
内容説明
1970年冬のニューヨーク、廃墟同然のアパートで小説を書くユダヤと黒人二人の凄惨な対決がはじまる。あのマラマッドのポップでサイケな異色作、待望の初訳。
著者等紹介
マラマッド,バーナード[マラマッド,バーナード] [Malamud,Bernard]
1914‐1986。ユダヤ系ロシア移民の子としてニューヨークのブルックリンに生まれる。学校で教えながら小説を書き、1952年、長編『ナチュラル』でデビュー。その後、8作の小説を書いた
青山南[アオヤマミナミ]
1949年生まれ。翻訳家・エッセイスト・アメリカ文学研究者・絵本作家。1973年、ジョン・ドス・パソス『さらばスペイン』で翻訳家デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キムチ
58
1970執筆なんてとても思われない疾走感、言葉がジャグリング宜しく空を飛び交う。廃墟同然の建物で火花を散らすことになる男二人。共に人間でありながら黒人 白人の差異からか愛…いやいや普遍的テーマたる文学で脳みそをグシャグシャにされる。だが白人?米じゃユダヤは差別対象。アイデンティティは根幹から地崩れ…安穏と平和に執筆していた時間は墓標なき墓の下に。ウイリーが投げつけた「俺は嫌いなんだよな、白人が黒人についてクソみたいなこと言うのは」こんな応酬が20cに流行った音楽を引き合いに出して花火のように打ち上げられる2025/02/24
ヘラジカ
53
日本でも人気が高いマラマッド。この作品は唯一未邦訳だった長篇小説ということで、これは何かあるなと身構えていたが、予想通りなかなかの怪作だった。今になって翻訳された理由と同時に、今まで翻訳されてこなかった理由も分かってしまう。悪夢が広がる終盤は、まるでソローキンを読んでいるような感覚だ。マラマッド作品は『アシスタント(店員)』しか読んでいないので、ここまで強烈な展開になるとは思いもしなかった。どこかの段階で現実とレサーの狂気がすり替わっているという解釈で読んだがどうなのだろう?しかし、楽しい読書だった。2021/01/20
sayan
32
説教をラップと表現。独特なリズムに、読み始めると一気に物語に引き込まれ、ページを次々と捲る。明け透けな物言いは、同時代の人種観に相まって、ひどく生々しい。けれども、差別的な部分はさておき、クセになる。フランツ・ファノンの「黒い皮膚・白い仮面」を彷彿するセリフには、パワーと同時に繊細さを感じる。少しでも気を抜くとバラバラになりそうな物語展開は、テネメントを毎回の回帰点に抜群のバランス感覚に支えられ最後まで破綻しない。70年代の小説だが古臭さはなく、むしろ発見が多い。何が言いたいかというと、抜群に面白かった。2021/05/19
*
27
【この物件、退去者絶賛募集中。】取り壊し寸前の集合住宅に、居座り続ける最後の男。その職業は、作家だ。エンディングをなかなか決められぬ男の前に、予想外のライバルが(不法に)入居!心身共にボロボロ、もう引っ越したらええやん!な状況になっても彼らはひたすら粘る。家主の懇願?彼女の提案?内なる声がかき消す。生きる理由はただひとつ、書くためだ▼ラストは「ええっ…」と脳内絶句。作家道って武士道だったの!?2022/04/04
まこ
10
ウィリーは黒人であることをネタに作品を書くけど、ユダヤ人のレサーはどうだろう。廃墟に引きこもって変化がない。レサーの小説は引きこもった自分自身を描いた作品だった。自分の中に入って気づかないから、ウィリーを自分の側に引きずり込むし、根本は変わらない。レヴェンシュピエールは変わるようレサーに刺激を与えていたけどダメだった、それは彼も強固に変わらないトコがあるから。2023/01/02