ランスへの帰郷

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ランスへの帰郷

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  • サイズ 46判/ページ数 257p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784622088974
  • NDC分類 956
  • Cコード C1010

出版社内容情報

本書は自伝の形をとっているが、この社会への鋭い考察である。自由と平等を謳う階級社会。さらには労働者階級と投票、右傾化にも、特に深い分析がなされている。

著者はフランス北東部の都市ランスの貧困家庭に生まれた。13歳で工場勤めを始めた父、小学校を出て家政婦になった母。祖父母もまた極貧の労働者だった。しかし哲学や文学に傾倒し、自身の同性愛を自覚するにつれ、著者は家族から離反してゆく。一族で初めて大学に進み、パリの知識人とも交わるようになった著者は、出自を強く恥じる。ゲイであることよりも、下層出身であることを知られるのが怖かった。
嫌悪していた父の入院と死を機に、著者は数十年ぶりで帰郷する。失われた時間を取り戻すかのように母と語り合う日々。息子が遠ざかったことで、母は苦しんでいた。自ら去ったはずの息子も、別の意味で苦しんでいた。階級社会、差別的な教育制度、執拗な性規範という、日常的であからさまな支配と服従のメカニズムが正常に働く社会。本書はその異様さと、それがもたらす苦しみを、ブルデュー、フーコー、ボールドウィン、ジュネ、ニザン、アニー・エルノー、レイモンド・ウィリアムズらの作品を道標としつつ、自らの半生に浮き彫りにした。仏独ベスト&ロングセラー。

内容説明

パリの知識人となった著者は、父の死を機に数十年ぶりに帰郷する。結び直される母との絆。なぜ、あれほどまでに出自を恥じ、家族から離反しなければならなかったのか。あからさまな支配と服従のメカニズムが正常に働く社会の異様さを、自身の半生に浮き彫りにした仏独ベスト&ロングセラー。

著者等紹介

エリボン,ディディエ[エリボン,ディディエ] [Eribon,Didier]
フランスの社会学者・哲学者。1953年フランス北東部のランスに生まれ、ランス大学とパリ第1大学で哲学を学ぶ。『リベラシオン』紙、『ヌーヴェル・オプセルヴァトゥール』誌で文芸・思想記事の執筆者として長年活動後、カリフォルニア大学(バークレー)、ケンブリッジ大学などで客員教授を務め、2009年から2017年までアミアン大学教授。その後ダートマス大学モンゴメリー・フェロー(特別研究員)に選出された

塚原史[ツカハラフミ]
1949年東京に生まれる。早稲田大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

おさむ

33
フランスの貧民階級に生まれ、苦労を重ねて社会学者となった著者の自伝。同国のすさまじい格差社会が赤裸々に綴られている。昨年見た映画「レミゼラブル」を思い出した。かつては左翼だった労働者階級の右傾化の分析が興味深い。ブルジョワへのルサンチマンがアルジェリアなどの外国人労働者への差別心として再構築された。本著のもう一つのテーマは、同性愛者としての苦悩だ。蔑視されながらも険しい道のりを克服する著者には頭が下がる。仏のみならず、独でもベストセラーになったのは、現代社会の普遍的な問題点が凝縮されているからなのだろう。2020/11/06

たま

29
ランスの貧しい家庭に生まれた著者が、絶縁状態にあった家族(貧困、無教養、暴力、飲酒)、自らの教育、同性愛を振り返る。知識人である著者にとって生い立ちは恥辱であり、それを語るのは困難なことだった。簡潔で率直な語りに籠もる痛切な響きに胸を打たれる。著者は恥辱を個人の心理に還元せず、哲学、社会学を参照しつつ社会システムが押しつけるスティグマとして捉え直す。切れば血の滲むような知的営為の切実さも読み応えがある。フランス社会だけでなく、階層の固定化が言われる日本についても考えさせられることの多い記憶に残る本である。2021/04/25

ハルト

12
読了:◎ 哲学者エリボンの、父の死をきっかけに、労働者階級の生い立ちから、地元のリセそしてパリ大学に行く学生時代、ゲイである自身の体験を綴り、ふり返って総括した自伝。ブルジョワ階級とのヒエラルキーに苦しみ、ゲイであることに苦悩し、それら出自からの恥の感情に苛まれて生きる。そして差別が、「支配と服従のメカニズム」が正常に働く異常さを指摘する。完全に重ね合わせはできないが、今日本で起こっている格差社会や移民やLGBTのことを思い出して読むと気づかされるものがある。2020/07/22

山のトンネル

9
階級やセクシャリティについて言及2023/06/29

hasegawa noboru

8
自伝であると同時に貧民層という自らの出自と生きて来た社会環境を考察した思索の書。フランスと日本では階層格差のありようも随分違うようだが、一九五三年生まれの著者と生きて来た時代を同じくする故か、強烈なインパクトとともに共感できた。泥酔して帰った父が手当たり次第に物を投げつけた消えない幼児期の恐怖の記憶。家政婦として働き、工場のラインで働き続けた老いた母の身体が示す<具体的、身体的な意味での社会的不平等><「不平等」という言葉自体が><搾取の剥き出しの暴力を非現実化する婉曲表現であるように、私には思えてくる>2021/02/02

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