出版社内容情報
北海道の丸太小屋で自給自足の美しい庭を営む「弁造さん」。ある夢を抱え生きる姿を12年に渡り記録した写真家による珠玉の写文集。
内容説明
写真家である著者は、北海道の丸太小屋で自給自足の生活を営み、糧を生みだす庭とともに暮らす「弁造さん」の姿を14年にわたり撮影しつづけた。弁造さんの“生きること”を思い紡がれた24篇の記憶の物語と40点の写真。人が人と出会ったことの豊かさを伝える、心揺さぶる写文集。
著者等紹介
奥山淳志[オクヤマアツシ]
写真家。1972年大阪生まれ、奈良育ち。京都外国語大学卒業後、東京の出版社に勤務。1998年岩手県雫石町に移住し、写真家として活動を開始。以後、東北の風土や文化を撮影し、書籍や雑誌等で発表するほか、人間の生きることをテーマにした作品制作を行う。2006年「Country Songsここで生きている」でフォトドキュメンタリー「NIPPON」2006選出、2015年「あたらしい糸に」で第40回伊奈信男賞、2018年写真集『弁造Benzo』で写真家協会新人賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゃちゃ
108
北海道で自給自足の庭造りをしながら、最期まで絵描きになる夢を追い続けた弁造さん。彼の晩年14年間に寄り添い、ファインダー越しに彼の人生から真摯に学ぼうとした筆者の奥山氏。弁造さん亡きあと、彼の生を切り取った写真の数々が“新しい過去”として意味を持ち始める。自分のものではない他者の人生が現在の生に作用し、心の内側から自己の生に強く光を放つのだ。他者の生を知ることは難しい。けれど、弁造さんは今もなお奥山氏の胸の内に確かに生きて語りかける。人が人と深く出会うということの素晴らしさや豊かさに、胸が熱くなる作品だ。2020/10/31
ケロリーヌ@ベルばら同盟
53
素晴らしいレヴューに惹かれて。静かに深い筆致で綴られた、北の大地の開拓民最後の世代、弁造さんと、写真家の奥山淳志さんの14年間にわたる交流。25歳の青年は、弁造さんが「庭」と呼ぶ自給自足の実践場に、長年の労働と思惟が刻まれた浅黒く精悍な容貌に、その佇まいにカメラを向け、その話に耳を傾け、エスキース(素描)に目を凝らし、その魂に寄り添い続けた。それは、弁造さんという生き方の来し方と行く先を見つめると同時に、自身にこの世に於ける生命の意味を問いかける月日でもあった。温かく美しい欠片が読者の胸に宿って離れない。2020/12/09
マリリン
41
著者が25才、弁造さんが78才の時に出逢って14年間の交流。視線が穏やかで優しい。都会で考えられないような素朴で温もりがある生活。自然の営みを慈しむ事で思わぬ恩恵を得られる幸せ。老いも死も静かに受け入れ且つ目標を持って生きる弁造さんとの出逢いと別れを経て、愛おしみ回想するかのように語られる弁造さんと過ごした日々。「健康に留意するのは死ぬときにうろたえぬためなり」 棲む人がいなくなった家や庭が静かに朽ちてゆく様は、寂しくもあるが全てが土に還る穏やかな過程を感じ、彼方に逝った魂を慈しむ著者の心情が沁みる。 2020/10/14
Maki
29
「生きること」を問い、ファインダーを覗き、弁造さんを撮り続けた著者。北海道の自然の描写や弁造さんの描写に、人間自身も自然の一部なんだと気付かされる。著者が弁造さんと共に過ごした日々と伝え聞いた日々、そこに含まれない余白の日々。他者を想い「生きること」を問うことで得た著者の答えが、とてもいい。生きることそのものが問いなのだと、問い続けることが生きることなのだと、それは、誰かに教わることではないが、誰かと過ごすことで問いが生まれるのかもしれない。だから生きる。最後まで生きて、生ききる。2021/04/16
ほし
24
深く染み入る本。凄く良い本でした。写真家の奥山さんが、北海道で自給自足の生活をする弁造さんの元に足繁く通い、交流する様を描いたエッセイ。その交流は弁造さんが亡くなるまで、およそ15年間に渡って続きました。筆者の目を通して、北海道の開拓時代から生きる弁造さんの言葉、立ち振る舞いを見ることで、生きること、老いること、夢を追うことと諦めること、亡くなることと残されること…色々なことに思いを馳せることになります。写真も文章も美しく、大切にしたいと思える一冊です。2020/01/20