出版社内容情報
アウシュヴィッツでガス室関連の強制労働をさせられたユダヤ人「ゾンダーコマンド」。彼らが書き残して埋めた手記や手紙が戦後発掘され、「アウシュヴィッツの巻物」と呼ばれている。ガス室の写真も撮影されていた。絶滅収容所の実態、故郷の町の歴史、家族への言葉……これは外部や後世の「他者」とつながろうとした意志であり、ホロコーストが「表象不可能」と評されることへの根源的な反証である。 絶滅収容所の渦中から届いた言葉をめぐる初の包括的考察。
内容説明
ナチのユダヤ人絶滅収容所内に設置されたガス室は、移送されてきたユダヤ人から選別された囚人「ゾンダーコマンド」(特別作業班)によって稼動していた。彼らは人々がガス室へ送られるのに立会い、遺体の焼却や処理、清掃など、「地獄」の労働を担わされた。ゾンダーコマンドたちがひそかに書き残してアウシュヴィッツ収容所の火葬場の地中に埋めた記録、手記や手紙が戦後、数十年にわたって発掘されている。イディッシュ語やフランス語、ギリシア語などの言語で書かれ、内容も文体も体裁もさまざまである。ガス室の入り口から隠し撮りした写真もあった。やがて死の選別が自らにも下される恐怖のなかで、書くことは彼らの生を支え、同時にナチに対する抵抗でもあった。それは外部の他者、後世の人々とつながろうとする意志であり、ホロコーストがしばしば「表象不可能」と評されることへの根源的な反証となっている。ゾンダーコマンドの文書は旧約聖書の中でも特別な書とされる五書にちなんで「巻物」と呼ばれる。「巻物」の書き手たちはほとんど生きて還ることはなかった。彼らはなぜ、何を、どのように書いたのか。本書は「アウシュヴィッツの巻物」の全体像を詳しく考察した初めての書である。
目次
序文 証言問題
第1章 歴史問題
第2章 ザルマン・グラドフスキ―死の工場における文学
第3章 散在した自我―レイブ・ラングフスの話
第4章 終極の準備―ザルマン・レヴェンタルの抵抗史
第5章 筆跡と手紙―ハイム・ヘルマンとマルセル・ナジャリ
第6章 カメラの眼―ビルケナウからの四枚の写真
結論 炎の輪を通り抜ける
著者等紹介
チェア,ニコラス[チェア,ニコラス] [Chare,Nicholas]
モントリオール大学美術史学科教授。視聴覚分野の現代美術やジェンダー論が専門。トラウマ体験を証言する表現形式としての美術・文学研究でも知られる。2007年、フランシス・ベーコンの絵画研究により、独創的な研究に授与される英国リーヴァーヒューム財団賞を受賞
ウィリアムズ,ドミニク[ウィリアムズ,ドミニク] [Williams,Dominic]
リーズ大学ユダヤ学科特別研究員。20世紀の英国ユダヤ文学やホロコーストを研究。ニコラス・チェアと「アウシュヴィッツの巻物」の共同研究を進め、戦後証言とその表象を考察している
二階宗人[ニカイムネト]
1950年生まれ。早稲田大学卒(労働経済論専攻)。ジャーナリスト。NHK記者としてローマ(エルサレム)、ジュネーヴ、ロンドン、パリの各総支局に駐在。東西冷戦下のヨーロッパ、中東紛争、バチカンの動静などを取材した。ヨーロッパ中東アフリカ総局長をはじめNHKエンタプライズ・ヨーロッパ社長を歴任。ホロコーストをめぐる思潮と宗教間対話に関心をもち、ナチ強制収容所の遺構やゲットー所在地跡の多くを訪ねている。これまでに上智大学神学部非常勤講師や米国フェッツァー財団の顧問をつとめた。日本宗教学会会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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