出版社内容情報
仕組みの解説を超え複雑な全体像を描く。先端科学を説くコレージュ・ド・フランス分子免疫学講座から生まれた、全く新しい免疫の学。免疫は細菌からヒトまでほぼあらゆる生物に具わり、病原体や、がんなどの内部異常に休みなく対処している。日常的に「免疫力アップ」が話題にのぼり、がんの免疫療法も普及しつつあるが、免疫はとらえがたい。特定の臓器に収まるのではなく、全身に広く深く組み込まれ、集合と離散をくり返す。実体というよりも偶然が織りなす複雑性の連鎖のようだ。免疫はよく「異物を排除する」と言われるが、実際はそれほど単純ではない。異物を敢えて完全に排除しないことで効果を発揮する場合もある。自己と非自己の境界も曖昧だ。知れば知るほど免疫の謎は深まり、だから面白い。
本書はこれまでの免疫の本とは、かなり異なる。主題はヒトの生体防御だが、第I部で免疫を進化の文脈で大きくとらえ、その働きを工学の用語である「ロバストネス」によって概念化する。第II部ではその装置を「モジュール」に分け、構造とつながりを分析的に調べてゆく。そして第III部で、ヒト免疫系の全体像を描き出す。さらに本書全体に、既存の思考枠組みを揺さぶる警句があふれている。
「自然免疫と獲得免疫は混じり合っている」「特異性の低い反応の組み合わせが、高度に特異的な認識に導く」「自己と非自己の識別は、メカニズムの多数性の産物でしかありえない」「全体の動態だけが最適化を達成することができる」「免疫系はじつは、海面に見える生理学的氷山の一角にすぎない」
打ちひしがれるほど精巧で複雑な免疫の全体像に迫るには、仕組みの理解にとどまってはならない。フランスの学問的伝統が最良のかたちで活きた、新しい免疫の学。
まえがき
はじめに
第 I 部 進化における生体防御
第1章 進化における捕食生物と獲物
第2章 系統樹の下部にある自然防御
第3章 断絶――獲得免疫
第4章 進化における獲得免疫
第5章 生物の複雑性とその進化
第6章 生体防御とロバストネス
第 II 部 ヒト生体防御の組織――部分が全体に向かう
第7章 分子と分子モジュール
第8章 分子モジュールの連鎖
第9章 細胞と細胞モジュールの構造
第10章 防御反応における機能モジュールのつながり
第11章 必然だが起こりそうもない出合い
第12章 より個別化された医療へ
第 III 部 ヒト生体防御の全体
第13章 監視機能
第14章 病原体に対する防御
第15章 内的混乱と生体防御
第16章 全体的な特質と機能
第17章 生体に包含される防御
第18章 自己と非自己の識別
第19章 生物の論理
おわりに
訳者あとがき
原注
用語解説
索引
フィリップ・クリルスキー[フィリップクリルスキー]
著・文・その他
矢倉英隆[ヤクラヒデタカ]
翻訳
内容説明
仕組みを知るだけでは免疫はわからない。生体防御の先端科学を説くコレージュ・ド・フランス「分子免疫学講座」から生まれた、深い思索と全く新しい免疫の学。
目次
第1部 進化における生体防御(進化における捕食生物と獲物;系統樹の下部にある自然防御;断絶―獲得免疫 ほか)
第2部 ヒト生体防御の組織―部分が全体に向かう(分子と分子モジュール;分子モジュールの連鎖;細胞と細胞モジュールの構造 ほか)
第3部 ヒト生体防御の全体(監視機能;病原体に対する防御;内的混乱と生体防御 ほか)
著者等紹介
クリルスキー,フィリップ[クリルスキー,フィリップ] [Kourilsky,Philippe]
1942年生まれ。エコール・ポリテクニーク卒業、パリ大学で博士号(科学)を取得後、ながくフランス国立科学研究センター(CNRS)に勤務し研究部長を務めた。1998年にコレージュ・ド・フランス教授に就任し分子免疫学の講座を担当。2000年からはパスツール研究所所長を兼任し、フランス研究省の顧問も努めた
矢倉英隆[ヤクラヒデタカ]
1972年北海道大学医学部卒業。1978年同大学院博士課程修了(病理学)。1976年からハーバード大学ダナ・ファーバー癌研究所、スローン・ケタリング記念癌研究所、旭川医科大学を経て、2007年東京都神経科学総合研究所(現東京都医学総合研究所)免疫統御研究部門長として研究生活を終える。2009年パリ第1大学パンテオン・ソルボンヌ大学院修士課程修了(哲学)。2016年ソルボンヌ大学パリ・シテ大学院博士課程修了(科学認識論、科学・技術史)。2013年からサイファイ研究所ISHE代表。2016年からフランソワ・ラブレー大学招聘研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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