出版社内容情報
短篇の名手の代表作に加え、原爆をテーマにした単行本未収録作品「藁と火」を収録。編者は元「文学界」編集長豊田健次氏。解説付。
内容説明
豊かな詩情、現実に立脚した視点によって紡ぎだされた確かな文学がここにある。故郷長崎に原爆が落ちたその日を描いた渾身の作「藁と火」(単行本未収録)所収。
著者等紹介
野呂邦暢[ノロクニノブ]
1937年長崎市生まれ。長崎県立諫早高校卒。1965年、「或る男の故郷」が第21回文學界新人賞佳作入選。翌年発表した「壁の絵」が芥川賞候補となる。1973年、第一創作集『十一月 水晶』刊行。1974年、自衛隊体験をベースにした「草のつるぎ」で第70回芥川賞受賞。1976年、「諫早菖蒲日記」発表。1980年5月7日、42歳で急逝
豊田健次[トヨダケンジ]
1936年東京生まれ。早稲田大学文学部卒。1959年文藝春秋に入社。「週刊文春」「文學界」「オール讀物」編集部を経て、「文學界・別冊文藝春秋」編集長に。その後「オール讀物」編集長、「文春文庫」部長、出版局長、取締役・出版総局長などを歴任し退社(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三平
12
42歳で急死したものの根強いファンがいることで知られる芥川賞作家の短編小説集。 物語よりも描写のディテールに重きを置いているように感じた作品が多かった。目の前に情景そのものが迫ってくるように描き、それにより登場人物の奥に秘めた心情までもがひしひしと伝わってくる。この人はやっぱり凄い。 特に原爆を題材にした『藁と火』、諫早湾が物語の舞台だと推測される『鳥たちの河口』が良かった。2016/11/23
ひねもすのたり
9
『愛についてのデッサン』が面白かったので読んでみました。 芥川賞候補作となった二作と代表作とされる『藁と火』他四篇が収められた作品集です。 いずれもジミな作品ばかりですが、70年代の純文学ってこんな感じの作品が多かったように思います。 ただ原爆投下直後の長崎を少年の視点で描く『藁と火』だけは別格です。あまりにも生々しい描写は街に漂う熱や臭いをこれでもかというぐらい感じさせてくれます。 2014/09/30
ぱせり
9
地味である、決して明るい話ではない、さらにいえば、どの作品にも一定の閉そく感があり、淀んだ空気感がある。その淀みがむしろ安定感のようにも思える。この安定感のなかで、静かに物語の機微を味わう。瞬間の人の気持ちが物語なんだと思う。そのちょっとした瞬間を丁寧にさすっていくような文章を味わうのは心地よいです。一番好きなのは何も起こらない(という)『十一月』 何も起こらないからこその味わいでした。2012/02/01
Hiro
4
密かに愛好されているらしい著者を私も時々読む。本書は著者が芥川賞を受ける前からの担当編集者が編んだ傑作短編集。大げさな熱っぽい語りではなく、あくまで冷静に折り目正しく、しかし時に情熱が一閃するような、鋭利な語りが特徴だ。どの作品も見事。人生の時々に味わう、畏れ、憤り、得意、失意、徒労、そして希望など、様々な感情がやや突き放したような視点からしかも愛情を持ってどうしようもない宿命のように描かれていく文章は本当に凄い。読後もしばらくは余韻に浸っていたくなる本。2022/05/30
佐伯りょう
3
眼に浮かぶような繊細で的確な描写。「読む」ことの豊穣さをたっぷりと味わえる極めつけの短篇集。原爆を題材にした「藁と火」は原爆が投下された日の情景を少年の目を通して描いた作品。煮えたぎる潮水が不気味。この日を境に、少年は大人への一歩を踏み出した。2012/04/05
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