出版社内容情報
少年期までを福島で過ごした詩人が、早春の大病と東日本大震災を受けて、かの地の樹木と死者への思いを込めて捧げるレクイエム。
目次
洞のある木
山路の木
寂寞の木
秘密の木
懐かしい死者の木
手紙の木
奥つ城の木
切り株の木
森の奥の樟の木
しののめの木〔ほか〕
著者等紹介
長田弘[オサダヒロシ]
詩人。1939年福島市に生まれる。1963年早稲田大学第一文学部卒業。1971‐72年北米アイオワ大学国際創作プログラム客員詩人。毎日出版文化賞(82)桑原武夫学芸賞(98)講談社出版文化賞(2000)詩歌文学館賞(09)三好達治賞(10)などを受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ふう
71
木に想いをよせる小さな物語たち。そして2011、『記憶の中の森の木がことごとく薙ぎ倒されたような』できごとによせた記。 どの章のどの言葉も、静かに胸に響いてきます。 木の美しさ、木の力強さ、木の気高さ、木の神秘、木の秘密、木の静けさ、木の孤独。 木が旅してきた時の流れが、根に蓄えられ、幹を支え、葉を繁らせて、わたしたちに言葉ではない詩を、物語を語りかけてくれます。 こうして感想を書きながら、またページをめくり、書くのを忘れて読み入ってしまいました。何度もかみしめたくなる作品です。2015/11/06
aika
50
人は樹ほどの長さを生きられない。 一本の木を前にして、自分なんて人間なんて小さな存在であることを思い出して、ちょっと立ち止まる。大きく、深く、呼吸をして、木々が風に揺られてさざめく音に耳を澄ませる。忙しなく、心にも余裕がなかった不甲斐ない一日を終えて、そっとこの詩集を開くと、今そこに流れる時間がゆっくりとそして愛しく感じられて、驚くほどでした。耐え難い悲劇に見舞われた故郷・福島への静かで、だけれど強い、詩人の思い。詩人がかつて子どもの頃に見上げた木は、誰の心の中にもある原風景なのだと思いました。2020/07/04
Y2K☮
40
樹にまつわる言の葉たち。セザンヌやクリムト、そして名作「ゴドーを待ちながら」をモチーフに据えた穏やかで飾り気の無い呟きに不思議な吸引力が宿る。創作意欲が沸く。無意識下で何かとシンクロして芽生えた「生きたい」という叫びか。3・11は著者から故郷の景色を奪った。でも記憶の中の風景までは誰も消し去ることはできない。かつて天を支える一本の大樹があった。たとえそれが失われても、代わりに名も無き凡百の樹々が一つになるなら悪くない。今日は太宰治とプロレスラー三沢光晴の命日。貰ったものは忘れない。できることを続けていく。2016/06/13
るんるん
31
樹や林、森や山のかさなる風景に囲まれて育った幼少時の記憶が、本書のモチーフとなっているのであろう。筆者が「樹の絵」の言葉を紡ぐとき、立ちどまって空や枝や葉を見上げる自分もそこにいたりします。あとがきでは、病床にいてメディアで東日本大震災の惨状を目にしたときの思いが綴られている。原発事故の際に放射能によって汚染された樹木は未だ行き場がないらしいが、天国にいる彼には地霊や木霊の悲鳴が届いているんじゃないだろうか。同じく山々に囲まれた土地に育った身としては、今さらながらに失ったものの大きさに慄然とします。2015/09/14
Maiラピ
25
私の三大好きなアイテム、雪の結晶、龍、そして巨樹。しかも長田弘さんの紡ぐ言葉が大好きなんで、長田さんが樹を語るこの本はドキドキしながら読みました。絵画好きな人にもぴったり。やはりこの本でも震災の影響が色濃くみえます。2012/02/08