祖国のために死ぬこと (新装版)

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  • サイズ A5判/ページ数 227p/高さ 20cm
  • 商品コード 9784622072386
  • NDC分類 311.23
  • Cコード C1022

内容説明

「祖国」の観念はいつ生まれ、そのために戦いで死ぬことがどうして神聖な行為とみなされたのか―近代国家の成立と宗教性=超越性を二重化したこの問いは、中近世の歴史家であり、二つの世界大戦を経験した著者にとって、切実な問いであった。12、13世紀のヨーロッパ。それまでの中世の王権が古代的な祭政一致的理念をひきずっていたのに対し、この時代に俗権としての国家は、それ自体聖性を獲得するようになった。パウロの手紙以来、教会組織は、頭であるキリストに有機的に結びつく四肢、すなわち「キリストの体」として、象徴的に理解されてきたが、この身体の隠喩が、王を頭とする「神秘体」としての国家という政治理念に転用されるようになったのである。そして全体の体の健康のためには四肢も切断されうるという比喩にしたがって、祖国のための死が、国家という永久不変の神秘体を防衛する聖なる行為とみなされるようになる。本書は『王のふたつの身体』などで知られる天才歴史家カントロヴィッチの代表的6論文を集成した。わが国の王権や国家の象徴儀礼をめぐる研究にも、大いなる刺戟をあたえる書となろう。

目次

中世政治思想における「祖国のために死ぬこと」
国家の神秘―絶対主義の構成概念とその中世後期の起源
「キリスト」と「国庫」
法学の影響下での王権
ダンテの「ふたつの太陽」
芸術家の主権―法の格言とルネサンス期の芸術理論についての覚え書

著者等紹介

カントロヴィッチ,エルンスト[カントロヴィッチ,エルンスト][Kantorowicz,Ernst Hartwig]
1985年、ドイツ領ポーゼン(現在のポーランドのポズナニ)に生まれる。第1次大戦では祖国のために進んで志願兵となり、戦後も左翼を鎮圧する軍で闘うなど、根っからのドイツの愛国主義者であった。ハイデルベルク大学での詩人ゲオルゲとの出会いは大きく、その影響下で1927年、処女作『皇帝フリードリヒ二世』を発表、1932年にはフランクフルト大学の正教授に就いた。しかし翌1933年、ヒットラー政権下でのユダヤ人公職追放に抗議し、翌年辞任、「水晶の夜」事件後にはアメリカ亡命を余儀なくされた。1939年からカリフォルニア大学バークレー校で教鞭をとり、反コミュニズムの嵐に巻き込まれた1950年代、プリンストン大学高等研究所の教授になった。1963年歿

甚野尚志[ジンノタカシ]
1958年福島県に生まれる。1980年東京大学文学部西洋史学科卒業。同大学院を経て、1983年京都大学人文科学研究所助手。東京大学教養学部助教授。ヨーロッパ中世史専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

Miyoshi Hirotaka

16
ホラティウスの詩にあるように戦士の英雄的な自己犠牲は紀元前ローマ時代に存在していた。対象が主人や主君やからより大きな地域や国家のために拡大されたのは、教皇が呼びかけた聖地防衛、十字軍が転機。戦いでの死は殉教に読み替えられた。近世になると聖地は、世俗権力、国家と同一視された。キリストを頂点とする神秘体、つまり、教会という概念は神秘的人格として法学面でも強化、普遍化された。近代になると民族的、党派的、人種的イデオロギーへ移植された。国策に殉じた方に対する尊崇の念は、長い歴史を通じて形成された世界共通の価値観。2024/11/01

さえきかずひこ

16
1948年から1961年にかけて米国移住後に発表された著者の6つの論文を収めたもの。表題作が最も重要な論文で、12,3世紀に"祖国"の観念が欧州で芽生え、また元来神学用語であった"神秘体"が政治用語として転用され、国家主義が発展していく過程が描かれている。諸論文の全体の傾向としては、中世ヨーロッパのあり方が古代の法から強く影響を受けていたことが強調されており、つねに古代史と中世史が連結して考察されている。さらに、特にアリストテレスが中世の法学者に様々に解釈されていたことが度々記されておりたいへん興味深い。2018/08/14

roughfractus02

9
20世紀の2つの大戦を経験した著者は、「祖国」概念の変容を十字軍遠征の時代に見出す。「祖国」が天上界を指した時代、天上の「祖国」へ赴く意味が殉教にあった。が、2世紀を跨ぐ遠征で「祖国」は教会と王権の支配するキリスト教圏を指すように俗化される。クレルモン会議で兵士の罪の赦免がなされると天上の祖国への愛は地上での同胞愛(カリタス)にシフトし、神の身体(代理)である教会も戦争によって王権の政治経済力と結託する。1965年に刊行された本書には、さらに死の尊厳を巡る中世の死と現代の殺戮の倫理的違いへの言及もある。2024/02/14

hatohebi

6
ロシアによるウクライナ侵攻から一年弱が経ち、祖国の戦争で犠牲となって死ぬことの意味が、改めて問われる必要がある。感情的・短絡的な議論に陥らず、それはどのように考えられてきたのかと歴史的に遡及し分析する視点が。本書は中世ヨーロッパを対象に、キリスト教の与えた変化と後世への影響を中心に考察する。古代でも国家のため死んだ人々への尊崇の念は存在したが、キリスト教は現世よりも天国を祖国と考えた。しかし後に王権の神聖化に結び付く。キリスト教的な永遠の観念を取り入れて、王や国家も個人を越えた永続的な存在とみなされた。2022/10/16

馬咲

5
ヨーロッパ中世を通して繰り返された、王権、教権、ローマ法、教会法、アリストテレスや神学の諸概念が織り成す相互作用に着目し、「国家」がどのようにして、近代国家にまで影響するほどの独自の倫理的価値を獲得したかを主に考察した論文集。叙任権闘争とローマ法復活を経た中世後期は、聖俗の単純な対立観念が通用しない、より調和的で相互補完的な二元主義が生じており、世俗的なものと霊的なものが、互いのシンボル、称号、特権等を大胆に相互借用していく時代だった。「政治神学」がこうした経緯を反映した言葉であることを十二分に理解する。2024/10/30

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