出版社内容情報
絶対王制の確立はヨーロッパの知的風景に大きな変化をもたらした。ラテン語という共通言語の時代は黄昏を迎え、フランス語による書物の広範な普及を背景に、議論する「公衆」が登場し、力を持ち始めていた。本書はまず、デカルト、モンテーニュ、ヴォルテールらによる例をあげながら、名詞 public の意味が変容していくさまを精緻にあとづける。
『百科全書』の企ては啓蒙された読者=公衆の存在なしにはありえまい。文芸人は何よりも「会話の人」と定義された。ところが、この公論の時代のただなかに「人が集まるなかでどうしてすすんで話ができるのか、わたしには理解できない」と告白する人物がいた。彼は社交的世界での成功が手に入ろうとする瞬間、そこから逃走してしまう。ジャン=ジャック・ルソーという徹底的に異質な才能は、広がりゆく公衆の言語空間に何を見ていたのか。『告白』と『対話』のテクストを通じて、公共的世界からのルソーの意図的脱出の意味がここに明らかにされる。
われわれの生活を覆い尽くす広告的言説の洪水のなかで、現代人が取りうる戦略とは何か。ルソーの〈声〉はその可能性をどのように示してくれるだろうか。『幸福への意志』につづく刺激的な論考。
水林章(みずばやし・あきら)
1951年山形県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。パリ高等師範学校留学。パリ第七大学テクストと資料の科学科博士課程修了。現在 東京外国語大学教授。専攻は18世紀フランス文学。著書『幸福への意志』(みすず書房、1994)、『ドン・ジュアンの埋葬』(山川出版社、1996)。
内容説明
“公衆=至高の審判者”の創出されるそのとき、言説の谺としての公論に抗しつつ、おのれの声を救済するためひとり戦ったルソー。公共的世界と新たな言語の可能性との緊張を鮮やかに描き出す。
目次
1 公衆の誕生―「文芸の国家」から「公衆」へ(「文芸の国家」としてのピュブリック;原始的意味―国家としてのピュブリック;変容の徴候 ほか)
2 ある逃走の記録―『告白』における「公衆」の位相(カフェの作曲家―ミクロ・レクチュール;宮廷的世界のただなかで;サロン、文芸人、会話 ほか)
3 言語の専制の彼方へ―『対話』における公衆と公論(沈黙、そして闇;『対話』の言語、公衆・国民の刻印;「前掲書の後日談」 ほか)
エピローグ “文学”へのオマージュ
著者等紹介
水林章[ミズバヤシアキラ]
1951年山形県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。パリ高等師範学校留学。パリ第七大学テクストと資料の科学科博士課程修了。現在東京外国語大学教授。専攻は18世紀フランス文学
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