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出版社内容情報
ウィーン近くの保養地バーデンハイムをナチの手がじわじわと包囲していく様を寓話のように描く。
内容説明
暗雲立ちこめる1939年の春。ヒトラーは数か月後にヨーロッパを席巻する。しかし、ウィーンにほど近い架空の保養地バーデンハイムでは、今年もホテルや街角はさんざめき、典型的な同化ユダヤ人の町のシーズンが始まる。かれらは、いくつもの小さな変化に気がつかない。運命の日は迫っているというのに…。現代イスラエルを代表する作家の一人、アッペルフェルドの初期の傑作。簡潔な文章と寓話のような語りに滲むメランコリーは、カフカの世界を彷彿とさせる。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
87
オーストリアがナチス・ドイツへ併合された翌年、ウィーン郊外にある保養地バーデンハイム(架空の町)。例年ここではフェスティヴァルが行われ、音楽家やオーストリア系ユダヤ人中産階級の者たちが大挙して訪れる。町がにぎわいをみせるなかで、衛生局の係員が測量をし、塀や旗を立たりし、運搬人が有刺鉄線をはりめぐらせてブロックを置いていく。町の多くの者は、そのことをさほど気にとめず、人のうわさ話にうつつを抜かしている。やがて、町の入り口に検問所ができ、ユダヤ人登録が始まる。→2023/10/18
nobi
54
ホテルにはプールがあり食事時には楽団が演奏するようなユダヤ人の多い保養地バーデンハイムに“別種の時間が侵入”し“牧歌的な表情”がいつとはなしに変わってゆく。自らの憂いを払い除けたいかからなのか、本当にそう信じているのか、皆が送られることになるポーランドを麗しい土地であるかのように言う。が美しい叙情詩のような語りには、目に見えない不安や悲痛な想いが堆積していく。死は仲間の一人みたいに立っており虚しさがあてもなく漂っている。機関車に連結された貨車4台での移動のその日が近づくにつれて、その重苦しさが増してゆく。2025/02/19
つちのこ
35
最後の一行にこの作品の凄さが凝縮されていると感じた。この一行のために、退屈で抑揚もなく淡々とした文章を辛抱強く読まされていくが、最後の最後に体を貫かれたような切れ味を魅せられ、バッサリとやられる。この退屈な文章を理解するためには再読が必要かもしれないが、それは人それぞれでしょうか。私の場合は何度読んでも印象は変わらないような気がする。物語は1939年のバーデンハイム。暗黒のホロコーストへ突入する、ユダヤ人の大量移送が始まる前夜の話である。2023/10/28
はやしま
28
【第101回海外作品読書会】私たちは歴史がどう動いたかを知っているが、その只中にいる時は何が起こっているのかわからない。気づいたときは取り返しがつかなくなっている。そうしたことはナチ時代だけでなく、世界のあちこちで、紛争、異常気象、経済の動きなど様々な出来事の中で起こっている。ゆっくりと、じわじわと動いていく本作の「保養地」の何たるかがわかった時、恐ろしさにぞっとした。そしてこの描かれている物語が過去において現実だったことにも。2018/01/14
さく
24
強制収容所から生き残った作家が死去したというニュースを見て本作を手に取った。舞台はウィーンに近い架空の保養地バーデンハイム。ユダヤ人たちは例年のごとくバーデンハイムにやって来たのだが、なぜか町は封鎖されホテルに留め置かれる。自分たちに何が起こっているのかわかるはずもなく、移送の日はやっとポーランドに行ける、と期待して馬車を待つ。やってきたのは薄汚い貨物列車。ナチスの影が忍び寄っているのに、当のユダヤ人たちはこんなに何も分からない状態なのかと怖くなった。2018/01/13
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