- ホーム
- > 和書
- > 文芸
- > 海外文学
- > その他ヨーロッパ文学
出版社内容情報
ホロコーストの記憶を深く埋め込んだ男バートフスは今…。ヘブライ語の達人の硬質のリリシズム。
内容説明
「ホロコーストをもろに呑み込んだ男」バートフス。いまだにしまい込んだままの恐怖の記憶。妻や娘との交流を拒絶する日常。しかし、彼は格闘している。人間としての尊厳や憐憫の情を失うまいと。彼に光は射すだろうか。削ぎ落とされた文章と、深く沈黙する行間。そこから、ヘブライ語の達人アッペルフェルドの確かなメッセージが伝わる。国際的な賞を数々受賞しながら、日本には初登場である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
79
14歳のときに、ホロコーストを生き延びてイスラエルに移住した作家アハロン・アッペルフェルド(1932 – 2018)の小説(1996年刊)。主人公バートフスは、毎日5時前に起き、コーヒーを飲み、たばこを1本吸う。6時に2本目のたばこを吸い、知恵遅れの次女と金を無心する妻を避け、7時には部屋の鍵をかけて家を出る。海と朝の光を浴びて8時にはカフェに座り、見知った人間や悪霊たちと対話をして時間を過ごす。そしてレストランでランチをとり、岸辺を彷徨ったり、当てもなくバスを乗り回し、家人が寝静まった夜遅く家に帰る。→2023/10/08
ののまる
8
20年以上経っても心に深く刻まれたホロコースト。それをすべて飲み込んでほとんど沈黙の日常生活を送るバートフスだが、どんな人間関係もギシギシと音を立てている。ホロコーストという経験によって人は打ちのめされ破壊された。著者の経験も壮絶。2021/06/26
刳森伸一
4
ナチスの強制収容所から生還し、その後もイタリアで非合法な仕事をして富を得て、周囲から「不死身」とまで呼ばれたバートフス。しかし、その「不死身のバートフス」という勇ましい通称とは裏腹に、冒頭からバートフスは既に損なわれている。イタリアで出会った妻とすらほとんど会話せず、カフェと海とを行き来する毎日。寡黙で何がしたいのかよく分からないバートフスの行動を追ううちに、バートフスが内に秘めた問題が朧げに浮かび上がってくる。ヘミングウェイの小説のような省略の技法が効いた佳作。2020/08/14
endormeuse
1
すれ違い続ける言葉と沈黙。ヒロシマ・モナムールと同様の主題、すなわち主題として名指すことすら困難な、戦禍が刻みこんだ表象不可能な外傷をめぐる作品。2020/03/05