出版社内容情報
30年間を分裂病の治療に尽くしてきた第一人者が語る最終講義。信頼と責任と知恵を伝える感動作。
中井久夫(なかい・ひさお)
1934年奈良県に生れる。京都大学医学部卒業。現在 甲南大学文学部人間科学科教授。著書『中井久夫著作集――精神医学の経験』全6巻別巻2(岩崎学術出版社、1984-91)『最終講義――分裂病私見』(みすず書房、1998)ほか多数。訳書にエレンベルガー『無意識の発見』上下(共訳、弘文堂、1980)のほか、みすず書房からはサリヴァン『現代精神医学の概念』『精神医学の臨床研究』『精神医学的面接』『精神医学は対人関係論である』『分裂病は人間的過程である』、ハーマン『心的外傷と回復』、バリント『一次愛と精神分析技法』、さらに『現代ギリシャ詩選』『カヴァフィス全詩集』『リッツォス詩集 括弧』、ヴァレリー『若きパルク/魅惑』などが刊行されている。最近作にはヤング『PTSDの医療人類学』(共訳)『エランベルジェ著作集』(全3巻)がある。
内容説明
「分裂病は、私の医師としての生涯を賭けた対象である」30年間を分裂病の治療と研究に尽してきた精神科医が語った最終講義。信頼と責任と知恵をつたえる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shikashika555
57
もの凄い人だな、と思う。 統合失調症はかつて精神分裂病と呼ばれていたが、それより以前の呼称 早発性痴呆と呼ばれていた頃に診療にあたられていた。 精神病が不治の病であり差別と隔離の対象であり治療の対象とはされにくかった頃に、掴みどころがなくコミュニケーションもほぼ取れないであろう患者さんを診てここまでの論考をなさるのは 常人にははかれないほどの情熱と知性の賜物だと思う。 『病圧と薬圧』の項。 「病圧」「薬圧」という考え方にハッとする。 心の病が身体に圧をかけている。 悪性症候群はそれに関係するのだろうか。2022/12/10
ゆいまある
56
綺麗な統合失調症を診る事が少なくなった。双極性障害概念の拡大と、発達障害の過剰診断に食われただけじゃなく(こう考えただけでも精神科の診断名って何だろうと漠然と不安になる)、こればっかりは薬物療法の進歩の恩恵も大きいと思う。中井久夫先生の神戸大学での最終講義。広く一般の人に向けられているが、精神科を目指すぐらいの人が読むのが丁度かと。研究の為とは言え、一人の患者さんに付きっきりで関わり、寄り添えたことは医師として幸せだったのではないか。統合失調症と免疫系疾患との関連などは現在も謎が残るところ。2019/06/20
燃えつきた棒
51
入院の朝 覚悟したかの 子の瞳 苦しみ去りて 悲しみ満てり/ 我が子にも 己れの地獄を 生前贈与す/ ようやくこの本にたどり着いた。 この本を読んで、様々な患者の症例を目にして、今更のように自らの「贈与」を確信した。 ひょっとしたら、そのことを認めることで、今までとは違った新しい一歩が踏み出せるかもしれない。 ふと、以前、職場の先輩から言われた、「それ(自分の子供の引きこもりの問題と取り組んでいくこと)が、あなたのライフワークだね。」という言葉が蘇ってきた。2020/05/22
ノンケ女医長
37
忙しい臨床場面にいるからこそ、読んでみた。著者が、看護日誌を大切にしていること、身体診察を通して患者との関係を良くしている点に感動した。「話をきいただけで処方するというのはおかしな行為です」と。中井先生は、今の時間最優先な医療をどう思われるだろうか。患者の家族が、良い精神科病院を選ぶポイントが書いてあって、深く納得できた。2024/05/07
ケイトKATE
31
中井久夫に関心を持つきっかけは、『100分de名著』で取り上げられていたからである。『最終講義』は、神戸大学医学部教授退官で行われた最後の講義を文章化したものである。中井久夫は長年に渡って統合失調症(出版当時は精神分裂病)の患者と向き合ってきた。中井久夫が大事にしていたのが患者の回復過程を記録してきたことである。また、患者を回復させるために「とにかく治す」だけでなく「やわらかに治す」。「心の生ぶ毛」を大切にした治療を務めてきた。患者を一人の人間として、真摯に向き合っていたことが分かる一冊である。2023/09/07