出版社内容情報
サッカーの歴史を振り返ると、旧ソヴィエト圏、東欧、旧東ドイツには、頭に「ディナモ」とつく名門クラブ・チームが存在する。これはいったい何を意味するのか? 著者が取材を進める中で明らかになったことは、それらのクラブには、内務省・秘密警察が大きく関わっていたという事実である。対戦国に勝つための水面下の工作(国威の発揚)もあれば、選手に諜報機関員やその使命を帯びた者を配し、海外試合を利用するということもあったようだ。
「ディナモ」(DYNAMO)は「ダイナモ」に通じることから、これまで「電気技師組合のクラブ」というのが定説だったが、実際は、警察、秘密警察、内務省のクラブであった。東欧諸国に数ある「デイナモ・~」のルーツは旧東側陣営の総本山モスクワである。ディナモ・モスクワこそが元祖ディナモであり、ロシアにおけるクラブのルーツでもある。そういった事情のため「ディナモ」という名称は社会主義の時代を生きた人々にとって「憎悪」と「憧憬」という引き裂かれた感情の象徴となっている。
スポーツが政治と関わることは多く、昨今そのテーマでの質の高い出版物が現われるようになってきた。本書はそういったなかで、まさに今まで語られていない切り口で、サッカーと政治・社会の相克を描き出す優れたドキュメンタリー作品となっている。冷戦の時代が終わり、東西対立は過去のものとなった。政治社会情勢が変わり、スポーツは新たな社会構造・経済構造との関わりの中で変貌を余儀なくされている。文化としてのサッカーは、そして、かつての名門クラブはどこへ向かうのであろうか。
書評情報:
信濃毎日新聞 2002.4.26
朝日新聞 2002.5.7 佐山一郎さんが書評
京都新聞 2002.5.19
北海道新聞 2002.5.26 大崎善生山河書評
ほか
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宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクション作家。1966年福岡県生まれ。1992年東京芸術大学大学院美術研究科修了。TV制作会社勤務を経て、1997年よりジャーナリストとしての活動を始める。サッカーを単なるスポーツとしてではなく「文化」としてとらえ、世界の民族問題、宗教問題、社会問題とのからみでドキュメンタリーとしてまとめていく仕事を展開している。著書として、『幻のサッカー王国――スタジアムから見た解体国家ユーゴスラヴィア』(勁草書房、1998年)、『サポーター新世紀――ナショナリズムと帰属意識』(勁草書房、1999年)がある。
内容説明
憎悪、そして憧憬―自由が抑圧された社会主義の時代を生きた人々にとって、“ДИНАМО”は二律背反の感情を抱かせる「栄えある称号」であった。ポスト冷戦時代を生きる、かつての名門クラブの物語。
目次
プロローグ 東方から飛来した謎のチーム―ロンドン1945
第1話 「いかさまマイスター」始末記―ベルリン2000
第2話 「オスト・ベルリン」の心意気―ベルリン~ブラウンシュヴァイク2000
第3話 史上最強のディナモ―キエフ2000
第4話 オー・スポルト・ティ・ミール―モスクワ2000
第5話 スパルタク・モスクワとレーニン像―モスクワ2000
第6話 哀しきカフカスのディナモ―トビリシ2000
第7話 「ディナモ」の源流を求めて―モスクワ2001
第8話 スタジアムのなかの革命劇―ブカレスト2001
第9話 消えたバッド・ブルー・ボーイズ―ザグレブ2001
エピローグ 「おろしやの幻影」を追いかけて―ダブリン2002
著者等紹介
宇都宮徹壱[ウツノミヤテツイチ]
1966年福岡県生まれ。1992年東京芸術大学大学院美術研究科修了。TV制作会社勤務を経て、1997年より写真家としての活動を開始
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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ベイス
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