内容説明
森の主として崇められた神聖動物“熊”の面影を色濃く受け継ぐ聖ニコラ。災厄をもたらす禍々しい存在として恐れられた聖カシヤーン。つねに三十匹の狼に囲まれて現れる“狼の牧者”聖ゲオルギイ。この世ならぬ不思議な出来事が起こるイワン・クパーラの前夜、死神をお供につれて各地を遍歴する聖女ピャートニツァ。夜毎にさ迷い出、人の血を吸う死せる魔女…など、ロシア民間信仰の淵源を古代スラヴの異教神崇拝に探る六話。
目次
序 古きスラヴへの旅
熊形の神
妖怪聖者
狼の牧者
イワン・クパーラの前夜
遍歴の聖女
呪われた女たち
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
momen
1
ロシア正教会と民間宗教の混和から生まれた様々な信仰を解説した本。ロシア周辺では古来からの素朴な神々とキリスト教の有名な聖人が融合し、教会の支配が強まっても様々な信仰がローカルな形を取り長く親しまれてきた。様々な民話や伝説もざっくりしたあらすじながら様々載っている。ほかの地域の信仰とも共通するところがあり、特に熊に対する信仰はアイヌを連想させたりして興味深い。2022/10/13
tan_keikei
0
ロシアにキリスト教が受容されていく過程でキリスト教の聖人信仰がロシア土着の神々と混じり合い変容し、聖人の名は冠されているが中身は悪霊や妖怪そのものになっているのが興味深い。そういう半ば迷惑な存在でも「ちゃんと扱わないと嫌がらせされるから」という雰囲気で祭礼するのがロシアの大らかさというかアバウトさが垣間見えて面白い。2012/08/12
桜子
0
980年キエフ・ルーシを統一したウラジーミル公は当初キエフの丘にぺルーンを主神とした六柱の神像を建てるも、わずか8年後に東方正教会キリスト教に改宗し、洗礼を受けるとただちにすべての偶像の破壊を断行した。排斥された守護神は聖人と混淆し、永く民衆に愛されることとなる。なかでも閏年に起こる災厄の責め苦を負った聖カシヤーンの悪漢譚、聖ピャートニツァが金曜日に働く女性を罰する逸話を利用して窃盗に及ぶ不心得者の話が愉快だった。ロシアでは遺憾なことに、18世紀後半になっても魔女狩りによる火刑があとを絶たなかったらしい。2011/05/18
atukan_monaka
0
ウィッチャーが好きな人、FGOでゲオルギウスが気になった人におすすめ 2020/01/29
Fumitaka
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『ウィッカーマン』で若い女の子が焚火の上を飛び越える儀式が描かれてたが、あれも異教の多産のお祭りが元ネタだった気がするので、その辺はイヴァン・クパーラの火の儀礼と似ている気がする。正教圏と西方教会圏という違いはあれど、ロシアもヨーロッパ文化圏の中に一応は属しているのである。魔女狩りが比較的東欧だと穏健だったというのは有名だが、魔女の嫌疑をかけられた女の人を水に沈めるとかも間違いなく西欧と似通っており、こっちは共産主義と同じく西側からの輸入品なのか、それともやはり汎ヨーロッパ的な土着の文化なのかわからない。2019/08/25