内容説明
現代アートとはどういうものか。本書はこの問題にさまざまな角度からアプローチを試みる。最近の有力な制作のスタイルとなっているインスタレーションの分析、戦後を代表するアメリカの批評家グリーンバーグの評論を軸に据えた絵画論、海外における最新の研究成果をもとに描き出したアートと現代思想とのスリリングな関係。ジャーナリストとしての取材体験を文献資料で裏付けた内容は、クリアな語り口のうちに、現代美術に対する一段と深い理解をもたらす。
目次
第1章 アートの現在(ベネチア・ビエンナーレ;イリヤ・カバコフとソ連・ロシア;さまざまなインスタレーション;インスタレーションの背景;モダンとプレモダン;メディア・アート)
第2章 絵画の行方(マティスとピカソ;グリーンバーグの来日;絵画の難問;カフカをめぐって)
第3章 アートと現代思想(ポストモダニズム;アートと現代思想;現代美術の可能性)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
sabosashi
10
(1)飛行の往路で読む。数時間におよぶまさかの出発遅れで完読(笑)。初読と思ったら再読ということ、でもほとんど初読の感触。 (2)口絵二葉は、いまをときめくゲルハルト・リヒター(笑)。これで三十年前の刊行というのでちょっと驚き。著者は読売新聞社系。そのためか意外性が目立つ、というか、この新書の性格もあって、かなり好き勝手にしているという印象。それが読み手にとっては斬新と映る。 (3)三つの章からなり、第一章は絵画ではなく、なぜインスタレーションなのか。2022/11/04
ホークス
4
1994年の本だが、自分にとっては面白い話が多かった。何と言っても「モダニズム」の説明に初めて納得できて良かった。中で、アートの意義についてのある美術家の以下の分析に共感した。まず人間の経験には二つあると言っている。一つは俗世で生き残る為の経験、もう一つは別世界に逃げ出すことによって自分を救いだす経験だとしている。アートはこの内後者に貢献することで、人々を現実から救い、生に希望を与える意義を持つ。又この効果は、アートが曖昧さを持ち、謎を秘めているからこそ、とも言っており、これにも納得。2015/04/04
tenchi
2
「現代アートとは何か」とは自分にとって不毛な問いなのかもしれません。そう思ってしまうほど分かりにくい内容でした。写真の出現の影響でリアリズムが衰退し、デュシャンの「泉」の登場以来、美術の歴史はミニマルアートから袋小路に入ってしまい、よりコンセプチュアルなインスタレーションへと拡散してしまった、最先端のアートは、そんな混沌とした状況にあるということなのでしょうか。ただ一方で、一種の回帰的現象なのか、写真でも表現出来ないような神秘的とも言える超スーパーリアリズムの絵画なども現れ、再び注目されているようです。2017/06/29
伊野
2
絡まった論理を断ち切る様な文体に速度感があり、情報に密度がある。作品をアートと定義づけるものがアートという解釈は初めて知ったがなるほどと思った。芸術作品の解釈というより、作品の構造について考察する本。2014/04/21
Hanna Saito
1
現代アートってなに?そもそもアートって?と聞かれたら、この本を勧めると思う。94年出版だが古さを感じさせないのは、現代美術の理論的状況が、90年代からさほど変わっていないということなのか。非常に読みやすいのに情報量が多く、グリーンバーグの訳されていないテキストの引用や、アドルノやダントー、ヴィトゲンシュタインの思想を用いたアート状況の解釈など、貴重。80年代のグリーンバーグの「モダンアートは再来する」言説に対するユダヤ史的解釈が、著者が実際に本人に会っているということもあり、個人的にかなり興味深かった。2013/07/09