内容説明
2020年4月。兵庫県尼崎市のとあるアパートで、女性が孤独死―現金3400万円、星形マークのペンダント、数十枚の写真、珍しい姓を刻んだ印鑑…。記者二人が、残されたわずかな手がかりをもとに、警察も探偵も解明できなかった身元調査に乗り出す。舞台は尼崎から広島へ。たどり着いた地で記者たちが見つけた「チヅコさん」の真実とは?「行旅死亡人」が本当の名前と半生を取り戻すまでを描いた圧倒的ノンフィクション。
目次
1(発端;兎の穴;橋の上の密談;警察と探偵;錦江荘 ほか)
2(面影;少女時代;消えた写真の男;今はなき製缶工場を訪ねて;原爆とセーラー服 ほか)
著者等紹介
武田惇志[タケダアツシ]
1990年生まれ、名古屋市出身。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。2015年、共同通信社に入社。横浜支局、徳島支局を経て2018年より大阪社会部
伊藤亜衣[イトウアイ]
1990年生まれ、名古屋市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修了。2016年、共同通信社に入社。青森支局を経て2018年より大阪社会部(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鉄之助
601
「行旅(こうりょ)死亡人」聞きなれないが、これは法律用語。行き倒れや身寄りのない自殺者のことで、その人が亡くなった場所の自治体が火葬することが、法律に定められている。また、死亡の状況が「官報」に掲載されるのだ! 兵庫・尼崎の古いアパートで一人暮らしの女性が、部屋の見えるところにあった金庫に3400万円もの大金を残して、玄関先で倒れていた。くも膜下出血の病死。なぜ? 共同通信の記者二人がそのドラマを、丹念に追った。「~小説よりも奇なり」。そこに、確かに生きていた証拠を突き止める瞬間に立ち会う感動を味わえた。2025/01/28
まこみや
362
一人の人間が死ぬ。遺品と関係者の記憶を経糸と緯糸にして故人の人生を物語として紡ごうとする。故人はどのような人生を生きたのか。その人生の意味と意図を推し測る。履歴が明瞭で織りやすい人生もあれば、出身や経歴が不明で謎に満ちた人生もある。しかしどのような人生の物語も結局は未完である。人は生まれ、生き、そして死ぬ。全ては偶然で、必然に見えるものは「まやかし」に過ぎない。さはさりながら、当人も故人の関係者も、死の厳粛さを前にして一つの物語を紡ぎたいと思うのもしからしむるところなのである。2023/08/14
trazom
306
「行旅死亡人」とは、病気や行き倒れ等で亡くなり身元が判明しない引き取り人不明の死者を表す法律用語だという。尼崎市で、3500万円の所持金を持ち、右手の指が全て欠損している高齢の女性の行旅死亡人に興味を持った共同通信の二人の記者が、女性の来歴を求めて調査を進めた記録である。社命ではなく、自腹を切って取材する二人に、好奇心溢れる記者魂を見る。推理小説のような展開だが、結末は、小説のように鮮やかではない。隣人に全く関心のない都会人と、古い思い出を大切にしている故郷の人たちの証言を通じて、世間の縮図が見えてくる。2023/03/16
R
274
非常に興味深い面白い本だった。誰かわからない死者の身元を探すドキュメンタリなんだが、紐解かれていくにつれ、謎が深まるという小説かくやという展開がとてもよかった。途中で珍しい苗字を辿る旅になったり、何してるか、もはや目的を見失いそうになったりするのもよいのだけど、その途中で出会う人たち、そしてうっすらと浮かんできた死者の姿というのがおぼろげのまま、もしかしたらという謎も残しつつ一人の人生を追うというこの道程がとてもよかった。生きていれば、何かが残るのだな。2023/11/09
道楽モン
239
身元不明かつ引取人もない死亡者を「行旅死亡者」と呼ぶらしい。知らなかったです。官報にて公示される数だけでも年間700件以上だという。本書は、3000万円余りの現金を残しながら世間から孤絶していた女性の孤立死という特異さに興味を覚えた記者2名が、ミステリ小説さながらの真相追求を記録したノンフィクション。警察も探偵も成し得なかった身元の特定を、記者特有の方法で遂げる過程がスリリングであり、それがすべて。謎のまま残された部分の解明を望むのは欲張りだ。現実は小説より奇なりで、真相という答えは風に吹かれているのだ。2023/07/25