内容説明
“山の深みに届いた生活”に憧れ手に入れた八ヶ岳の小さな山小屋。無骨な暖炉にゆっくりと火を熾こせば、炎に映る孤独はひたひたと一人を満たす。病の発覚、父親の死、コロナ禍…思いがけない非日常に立ち尽くす時も鳥は囀り、木々は色づき、季節は巡る。太古からの時間、自らの生をまっとうするため、心にいのちの火を灯すエッセイ。
目次
第1章 山小屋暮らし(山の深みに届く生活;火のある風景;遅い春・早い初夏;風の来る道;ストーブの話;長く使われるもの)
第2章 巡りゆくいのち(深まっていくもの;更新される庭;冬ごもりの気持ち;養生のこと;南の風)
第3章 鳥の食事箱(野生と付き合う;リスのこと;植物と仲良くなり、ときどき食べる;時間が止まり)
第4章 いのちの火を絶やさぬように(滲み出る本質;滞りが生まれてしまう;少しづつ、育てる)
第5章 遠い山脈(秘そやかに進んでいくこと;日常が甦る;遠い山脈;生命は今もどこかで;右往左往のただなかに在ること)
著者等紹介
梨木香歩[ナシキカホ]
1959年生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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@nk
47
今年は梨木作品をたくさん読む予感があり、ひとまず彼女の今現在を知るために手に取った。山小屋での暮らしで見つめる草木、耳を傾ける鳥の声音、暖炉の炎など、読んでいて心が透き通っていく。そんな自然に囲まれた場所でこのエッセイも綴られていて、まるで西の魔女の傍らで(きっと私は素敵な椅子に腰掛けて)話を聞いているように読了。ときに自身の病や家族の最期と医療、沖縄戦や難民、海洋ごみや計画的廃品化、そしてコロナ禍にまで及ぶ著者の想いに共振しては、彼女と同じ時間を生きていることを本当に有り難く感じる1冊だった。⇒2024/01/18
aika
45
便利さに慣れた昨今では当たり前のことでも、梨木さんは立ち止まり、思考する。自然の営みと人間の生き死にとが混ざり合う様が炉辺の火に照射されているようでした。『春になったら苺を摘みに』の夫人のその後と、病床にある老いた父の介護…生じた難しく悲しい出来事に心が痛み、祖母を看取った母の姿を思い出されました。「歳を重ねるということは本当にひとを楽にする。今生き難さを抱えるお若い方々、試しにもう少し生きてみてください。たぶん違ってくるから。」旅の情景という文脈から出てきた何気ない言葉。年を重ねてまた読み返したいです。2023/11/08
piro
37
毎日新聞日曜版連載のエッセイを纏めた一冊。八ヶ岳山麓の自然、都会の中の小さな自然の営みを通じて、変わりゆく世界の中でどう変化を受け入れていくべきか、何を守って行くべきか、真剣に考えて行かねばと思わせる内容でした。何かと共感することが多く小さな喜びを感じます。妄信的な保守ではなく、変化を受け入れつつ、譲れないものはしっかり守る。「計画的廃品化」などもっての外。たとえ非効率であっても、自然への敬いと心の豊かさを忘れる事なく暮らしていきたいものです。暖炉のある暮らし、良いなぁ。2024/07/07
まさ
28
「新」を読んだということもあり、文庫本で改めて梨木さんが纏う自然の感覚をいただく。日々変化することに丁寧に接する姿があり、それが日常であることに敬意と憧れを持つ。年末に登場するらしい、川嶋みどり先生との往復書簡も楽しみ。2023/11/21
Nao Funasoko
22
著者の作品は何冊も読んでいる。とてもおこがましい物言いになるが、人を思考性と指向性と志向性と嗜好性をもとにいくつかのグループに分類したらきっと著者と私は同じグループに属するだろうなと思う。勿論、考察力も知識力も雲泥の差があることは言うまでもないだけれども。(^^;) 美味しかったです。ごちそうさまでした。2023/12/05