内容説明
高架下商店街の人々と、謎めいた女探偵、銭湯とコーヒーの湯気の向こうで、ささやかな秘密がからみ合う。『つむじ風食堂の夜』の著者によるあたたかく懐かしく新しい物語の始まり。
著者等紹介
吉田篤弘[ヨシダアツヒロ]
1962年東京生まれ。小説を執筆するかたわら、クラフト・エヴィング商會名義による著作とデザインの仕事を行っている。2001年、講談社出版文化賞・ブックデザイン賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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風眠
128
「私ね、バツイチで、子ども亡くしてるの。生きてたら今年ピカピカの一年生だったんだ」昼休みの給湯室、たまたま居合わせた私に、そんな打ち明け話をした人。その人は女優レベルの美人で、いつも華やかで、恵まれてていいなぁ、と遠くから思っているくらいの感じで、特に親しくはなかった。「え?その話、私が聞いてよかった話ですか?」と思わずそう言ったことを覚えている。あれから数年、この事をきっかけに仲良くなったりはしていない。高架下の商店街、誰にでもある「実は」を描いた日常のドラマ。読後私は、あの日の給湯室を思い出していた。2018/07/04
nico🐬波待ち中
118
肩の力をいい具合に抜いた、ゆるーい感じが心地好い。ちょっとクセのある人々の日常が穏やかに描かれた物語。高架下商店街を舞台に、身の回りのささやかな日常が繰り広げられる。鉄道の高架下なので、陽当たりも悪く騒音も建てつけも超最低で、閉店していく店舗も後を絶たない。けれど商店街に残っているメンバーの仲の良さがとても好ましい。高架下なので空もよく見えず、天気も晴れなのか雨降りなのかもよく判らないけれど、見えない晴天でもなるようになるさ、とどこ吹く風。そんなみんながとても好き。みんなの優しさがじんわり伝わってきた。2020/07/24
モルク
107
高架下の商店街「晴天通り」の古道具屋の雇われ店長の主人公美子。まわりのちょっとクセがあるが、あたたかい人々に囲まれて、ゆるーい生活を送っている。大きな事件が起こるわけではなく、心をゆさぶる感動もないのだが、あぁこんなのもいいなと思う。個人的にはベーコンの姉さんが好き!彼女の賄いベーコン醤油ライスが食べてみたい。2021/03/17
ユメ
105
線路に遮られて空の見えない高架下の商店街で暮らす主人公が晴天を想う、というニュアンスが何だかいい。何気ない一瞬一瞬が、引き寄せられるようにしてこちらの心に灯る。「なにごともなく」の裏には沢山の「じつはね」が隠されている。それに戸惑う主人公。しかし、彼女が辿り着いたのは、そんな人々の営みも含めていま、ここを愛おしく想う気持ちだった。「私たちはまだ生きているし、決して力強くはないとしても、正しく息をしている」そのことを自分に対しても確認して、短くも満ち足りた読書を終えた。ちっぽけな人生もそう悪いもんじゃない。2015/09/18
めろ
81
高架下の寂れた商店街「晴天通り」。そこで穏やかに日々を営む人たちのお話。電車の音と、雨の音。ベーコンの燻した香りと銭湯の湯気。ささやかな生活の中に潜む幸福に気づくことができる。「なにごともない」ことの幸福と安心。昨日の繰り返しのように見えても、特別じゃない日なんてない。いつも見ている風景がとても愛おしく感じられる、そんな素敵な一冊でした。2014/05/08