内容説明
金曜の晩だというのにデートもなく、救急病院勤務の女医クレアは髪を乱して働いている。顔にけがをした少年の傷の縫合を終えて、ほっとする間もなく次の患者が待っているという。クレアは汚れた白衣の交換と手の消毒に医師控室に入った。彼女は鏡のまえで、まもなく三十四歳になる自分の姿を眺め背がもう少し高かったらとぼやきつつ、白衣を着替えた。だが、救急処置室に入り、肉切包丁でけがをした男を目にした時には、クレアは完全に医師の顔に戻っていた。背が高く、頬骨が張り、あごに小さな傷跡がある患者が、悪戯っぽい目で眉間にしわを寄せて、こちらを見つめている。“一癖ありそうな男だわ”彼女は久しぶりに、目前にいる異性が気になった。