内容説明
ヴェトナム帰還兵のモスは、メキシコ国境近くで、撃たれた車両と男たちを発見する。麻薬密売人の銃撃戦があったのだ。車には莫大な現金が残されていた。モスは覚悟を迫られる。金を持ち出せば、すべてが変わるだろう…モスを追って、危険な殺人者が動きだす。彼のあとには無残な死体が転がる。この非情な殺戮を追う老保安官ベル。突然の血と暴力に染まるフロンティアに、ベルは、そしてモスは、何を見るのか―“国境三部作”以来の沈黙を破り、新ピューリッツァー賞作家が放つ、鮮烈な犯罪小説。
著者等紹介
マッカーシー,コーマック[マッカーシー,コーマック][McCarthy,Cormac]
1933年、ロードアイランド生まれ。4年間を空軍ですごし、大学にもどって創作活動に入る。65年、長編デビュー。85年、第5長編Blood Meridianで新境地を開く。92年に発表した『すべての美しい馬』で全米図書賞・全米批評家協会賞を受賞。2007年、The Roadでピューリッツァー賞を受賞
黒原敏行[クロハラトシユキ]
英米文学翻訳家。東京大学法学部卒(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
329
小説の中には2つの時間が流れる。1つは地の文であり、そこでは圧倒的な速度で事象が展開してゆくが、それは登場人物たちの多くにとって理不尽でもあり、また不条理でさえあった。もう1つの時間は保安官ベルの内省として語られるが、それはアメリカの失われた良心の姿でもあるかのようだ。マッカーシーはアメリカを愛している。しかし、みんなに愛されているはずのアメリカは、もはや"No country for old men"であるばかりか、誰にとっても降りてしまいたくなるような国だ。マッカーシーは、まだ諦観しないから書くのだ。2016/01/16
nakanaka
96
読んでいくうちになんか知ってるような気がすると思いググッたところ映画「ノーカントリー」の原作であることを知りました。ハビエル・バルデムの恐ろしい殺人鬼役が強烈に印象に残っています。救いの無い話で後味があまりよくはなかったですが深い作品でした。単純な犯罪小説ではなく戦争や麻薬といった人間の負の部分を強く描いた内容だと感じました。しかしアントン・シュガーの残酷な殺人鬼っぷりは一級品ですね。結局シュガーについては謎が多いことも怖さを増幅させてくれていると思います。何の罪もない犠牲者が多すぎる!2016/10/13
藤月はな(灯れ松明の火)
92
メキシコとの境界近くに転がっていたのは、死体の山と麻薬売買で生み出された金。その現場を目撃したにも関わらず、金を持ち出したモスを追い、魂を感じられないような瞳を持つ殺人者、アントン・シュガーが動き出す。各個人の心情描写は一切、なしで会話と事実が読点が排除された文体で書き連ねられる。なのに「おれを信じてくれ。その言葉嫌いなんですよね。前からずっと。自分で言ったことがないのか?いや。ありますよ。だからあてにならないって知っているんです」というタクシードライヴァーとの会話やコインでの生死決めなどのコミカルがある2015/12/07
扉のこちら側
89
2016年170冊め。【144/G1000】邦訳のタイトルのせいで敬遠していたが、同じ第10回G1000チャレンジ本の『アメリカン・サイコ』のようなスプラッタな話ではなかった。大金をつかんで逃げる男と追う男、その二人を追う保安官。「物語らしい結末」を求めていたが、そうはならない話だった。現実に起きてしまったことは、もう撤回できない。シュガーのバックグラウンドが明かされないことで、理解できない暴力性が際立っている。2016/03/13
sin
84
「」で、括られていない会話はまるで心の中に浮かんだ言葉が遣り取りされるようで、それでいて不自然に感じないのは作者が自分自身に語りかけるように物語を紡いでいるからなのか?血と暴力の国というのはその国が未だに自分の身は自分で守るという自警団の信念を持ち拳銃所持を容認することからくるジレンマなのか?拳銃を所持しないと住めない国という矛盾からシュガーに独自の哲学を持たせたのか?◆英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1000冊を読破しよう!http://bookmeter.com/c/334878 2016/10/15