内容説明
侵入者サクソン族の手から父祖の地をとりもどそうと、ブリテンの人々は最後の戦いにうってでた。だが完膚なきまでに叩きのめされ、あたりは一面の廃墟となった。ただひとり生き残った14歳の少年オウェインは、愛犬とともに北にのがれようとする。逃避行で出会ったのは、飢え怯えた少女レジナ。オウェインは、病気の少女をどうしても見捨てることができず、自分に残されたただひとつのもの“自由”を売って、この少女を助けようと決心する。…サトクリフの金字塔『ローマン・ブリテン・シリーズ』掉尾を飾る幻の傑作。
著者等紹介
サトクリフ,ローズマリー[サトクリフ,ローズマリー][Sutcliff,Rosemary]
1920~92。イギリスの児童文学者、小説家。幼いときにスティルス氏病がもとで歩行が不自由になり、その障害と闘いながら、数多くの作品を書いた。『第九軍団のワシ』、『銀の枝』、『ともしびをかかげて』(59年カーネギー賞受賞)のローマン・ブリテン三部作で、歴史小説家としての地位を確立。数多くの長編、ラジオの脚本、イギリスの伝説の再話、自伝などがある
灰島かり[ハイジマカリ]
国際基督教大学卒。英国のローハンプトン大学院で児童文学を学ぶ
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェルナーの日記
216
本作は同著者ぼ『イルカの家』のスピンオフともいうべき作品。主人公オウェインのもつイルカの紋章の指輪は、『イルカの家』の時代から百年以上もの間、代々受け継がれてきた。物語は6世紀初期のイングランド。グレートブリテン島に侵入したアングロ・サクソン人が同島南部から中部にかけての地域に建国した国々か群雄割拠した”七王国時代”と呼ばれる時期に当たる。登場する人物も実在する者も多い。例えば初代カンタベリー大主教アウグスティヌス。教皇グレゴリウス1世の命で約40人の修道士とともに596年にイギリスへ布教のために派遣。2019/03/22
Koike Katsuya
10
上橋さんのエッセイ経由で読んだ。上橋さんは深い感動をくれる特別な作家だ。ローズマリーサトクリフも同質の感動が得られる。上橋さん好きなら、絶対読んだほうがいいと思う。2017/03/30
みよちゃん
9
サトクリフの作品は「第9軍団のワシ」「太陽の戦士」かが課題図書として取り上げられた事でした。40年も経つと記憶が曖昧ですが、この作品は初めてでした。民族の違いや戦争による苦しみ、別れ、愛が人間にとって避けがたいとしても、この作品では、新しい風が感じられて終わり、嬉しかった。2019/09/05
星落秋風五丈原
9
「イルカの紋章を彫った指輪」を持つ『ともしびをかかげて』のアクイラの末裔・少年オウェインを襲った風、戦争。この風は、部族、家族、生きてゆく道すら奪う。そんな彼の最初の友となるのはサトクリフ作品の常として登場する忠実な犬ドッグ。『ケルトとローマの息子』のカノグと征服者であるサクソン人に仕えるオウェインとは敵地の中に一人という境遇が似ているが主人公と立場や民族を越えて友情を育む同世代の友人がいない点が従来作品と相違。憎しみと恨みが渦巻いて荒れ狂った嵐の夜を越えて征服者と被征服者の間に信頼の絆がうまれる夜明け。2007/06/18
ぱせり
9
積極的に何かに向かって突き進むわけではない主人公。常に自分の周りの人間の要請に答え続ける主人公。これは今までの彼の先祖たちにはいなかったタイプ。彼の生き方が周りの人間に大きく作用して、物語がぐいぐい動いていくのがおもしろい。闇のさなかに、全く種類の違う新しい朝の気配。2009/09/12