出版社内容情報
倉数 茂[クラカズシゲル]
著・文・その他
内容説明
「あの時以来、僕は伯母の『王国』の住人でありつづけているのです」売れない小説家の私が若手作家の集まりで出会った、聡明な青年・澤田瞬。彼の伯母が、敬愛する幻想小説家・沢渡晶だと知った私は、瞬の数奇な人生と、伯母が隠遁していた古い屋敷を巡る不可思議な物語に魅了されていく。なぜ、この物語は語られるのか。謎が明かされるラスト7ページで、世界は一変する。深い感動が胸を打つ、至高の“愛”の物語。
著者等紹介
倉数茂[クラカズシゲル]
1969年生まれ。大学院修了後、中国大陸の大学で5年間日本文学を教える。帰国後の2011年、第1回ピュアフル小説賞「大賞」を受賞した『黒揚羽の夏』でデビュー。18年に刊行された『名もなき王国』で第39回日本SF大賞、第32回三島由紀夫賞にダブルノミネート(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シロナガススイカ
11
『僕らはある『特別なこと』をなかったことにして生きている』/とある作家を巡り、二人の男の人生に歪みが生じ始める。/うーん、ちょっと長い!そして小難しい!こういう目的地が見えなくてやきもきさせられる作品は、道中を楽しませられるだけの筆力が欲しい。ラスト数ページの衝撃というのも、個人的には反則寄りで受け付けなかった。主人公が作家で、苦悩とか諦念とかを含めた物書きとしての熱量に一番筆が乗っていた(気がする)。物語の外側に書き手の物語があることを想起させられてしまうそういう感じも、ぼかぁ好きじゃないんだ。2024/08/03
タイコウチ
8
売れない作家(本書の語り手)とその若き友人とその叔母(若き日に短編小説をいくつか残して隠遁生活に入ったまま亡くなったという幻の作家)という3人が記したとされる複数の中短編を組み合わせて精緻に構築された物語。小説を書くことが現実と虚構のあわいをぼかす。時代や舞台を行き来する幻想的で入り組んだ物語世界に最初は少し戸惑うが、それぞれの中短編の完成度は高く、結末にある種の種明かしをされてもなお、幻惑的な世界を彷徨った記憶の断片が余韻としてしっかり残る。多元的な物語世界は、呉明益の『自転車泥棒』を思わせるところも。2023/01/29
ベック
6
物語が物語を生み、物語が分岐し、物語が物語を包んでゆく。ぼくは、こういう繚乱とした世界が好きだ。頭のどこかでこういう色んな物語が詰めこまれた本を求めていた。なんとも素敵に巧みに終息したではないか。実のところ、いったいどうやって着地するのか気が気じゃなかったのだ。いやあ、良かったー。2022/04/30
ハッピーハートの樹
5
どのお話も最後が妙に印象に残りました。物語の中って何次元なんだろう。紙の上だからといって2次元だとは思えない。文字の組み合わせだけでも数えきれないのに。同じ言葉でも前後の文脈や誰に話させるかで意味は変わるし。正に無限!/物語を紡ぐだけで、いくらでも生き返らせることができる?そんなことはないか。過去や未来の話しは書けても、自分のリアルタイム、同じ時間を過ごすことはできないもの。/書くことをやめたらそれでおしまい。でも本の中の人達は気がつかないかな。時が止まったみたいに。/今を一緒に過ごせるのは素晴らしいね。2022/12/20
ふゆ
5
読友さんのステキな感想より積読を発掘しました。どうして文庫の登録なのかなー…直し方もわからないし、もういい。筆者の腕力でぐわんぐわんに振り回される力ずくの一冊でした。1人の埋もれた小説家と彼女の住う屋敷。彼女を知る若者と40歳の男。自分の存在について、自分以外の誰かが本当に知っているのか。人は誰しも自分の王国を持ち得るか。美しい掌編をきな臭く酒臭いリアルが挟みます。私はこの夏この本を読んだという満足感が得られるステキな読書体験でした。ご紹介ありがとうございました。2022/08/27