出版社内容情報
河邉 徹[カワベトオル]
著・文・その他
内容説明
写真館を営んでいた父の影響で、カメラマンを目指すようになった匠海。父の死後、母との関係性が悪くなった匠海は,逃げるように東京の大学に入学し、写真を学び始める。しかし、待っていたのは、学費と生活費を稼ぐだけで精一杯の毎日。「これを乗り越えれば夢に近づける」と自分を奮い立たせていたが、ある出来事をきっかけに、休学を決める。実家にも帰れず、衝動的に向かった先は長野県・辰野町―かつて父が蛍の写真を撮影した場所だった。なんの計画もなく訪れた匠海を出迎えてくれたのは、父が愛した美しい景色。そして、それぞれの事情により辰野で暮らす人々との出会いが、彼の心を変えていく―。自分の居場所を見つける物語。
著者等紹介
河邉徹[カワベトオル]
1988年兵庫県生まれ。3ピースバンド・WEAVERのドラマーとして、2009年メジャーデビュー。バンドでは作詞を担当し、2018年に小説家デビュー。『流星コーリング』で第十回広島本大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ばう
66
★★★蛍を見に行きたい。ただそれだけの理由で、昔父親が撮った写真を思い出して訪れた辰野の町。東京の大学で写真を学ぶ匠海は経済的にも肉体的にも精神的にも疲れ果てていた。そんな彼を辰野の町の人々は温かい受け入れてくれ、次第に前を向いて歩き始める。東京で居場所を失い、自分の人生の正解を見つけようともがく匠海は辰野の町で様々な人に出会い、様々な経験をしてようやく気づく。人生は人それぞれ、人の数だけ人生がある。そして僕にも僕だけの人生が。読みながら私も浄化されていくような感覚に陥りました。こんな小説は初めてかも。2023/04/26
へくとぱすかる
61
ふつうに人生を送れるはずが、何かをきっかけにして軌道をはずれてしまうことがある。大学の写真学科を休学して、父の撮った蛍の写真にひかれて辰野にやってきた主人公が、同じような移住者もいる土地の人々の中に、いつしか溶け込んでいく。もちろん田舎暮らしがうまく行かない現実もあるはずだが、幸いこの物語はちょっとした事件はあっても、人々の温かさの中で展開していく。迷いに包まれた若者には癒される物語だろう。期限つきの休学期間をどのように終わるかが決断のしどころだが、そこは「なるほどそうだろうな」と思える道を選び取る。2023/02/03
えんちゃん
54
進路・親・友人・生活・お金。悩める青年が大学を一年休学し、長野の田舎で自分の生き方を見つめ直す青春小説。上手くいきすぎる内容だけど、こんな風にみんなが優しくなれたら、みんなが幸せになれるんだなーと。当たり前のことに気付けてとても読後感が良い。お話はフィクションだけど実在するお店や宿があるみたい。ネコちゃんも!2025/07/14
ぶんこ
52
写真館をしていた亡き父を思い、大学の写真科に入った匠海。3年生になって、同じ風景写真にひかれている同級生斉木から退学して怪しげな団体に入ることを誘われる。断りきれずに集金に来た斉木に半額だけ渡し、残りで休学手続きをして東京を引き払う。向かった先は父の写真と同じ辰野。ここで明里と出会い、ゲストハウスの佳恵、金井、きよ、康太と人との繋がりが匠海の心を解き放つ。明里と、白い雪が月光に照らされ、乱反射して輝いているのを見つめている場面が印象的でした。星野道夫さんが、写真を撮るまでに長時間待つのを思い出しました。2023/06/30
konoha
50
とても読みやすいけど、きれいすぎるかな。読後感は爽やかながら、匠海の悩みや葛藤はリアルで切なく共感できた。写真を学んでいた匠海は東京の大学生活で挫折し長野県の辰野にやってくる。辰野は写真館を営んでいた父親が蛍を撮った場所。匠海は様々な人に出会い、成長していく。出会う人たちはゲストハウス経営、古着屋、甘酒屋など自分のスタイルで自然の多い暮らしを楽しみ「人生の楽園」に出てきそう。現実はこんなに上手くは行かないと思う。でも風景の一つひとつが美しく、青春の物語として若い人にもおすすめできる作品。2024/07/22