出版社内容情報
三浦哲郎『とんかつ』、永井龍男『出口入口』など、国語教科書から厳選した目がぱっと明るく開ける「面白い」小説12編。
内容説明
宿泊する不審な親子を見つめた三浦哲郎の『とんかつ』、差出人のない小包が届く『絵本』、古今著聞集から採った『竹生島の老僧、水練のこと』…。「成長する道程に置いておくので読んでほしい」という願いで教科書に載せられた作品を、さらに「面白い」を基準に編んだアンソロジー。
著者等紹介
佐藤雅彦[サトウマサヒコ]
1954年、静岡県生まれ。東京藝術大学大学院映像研究科教授及び、慶應義塾大学環境情報学部客員教授。独自の方法や考え方で、映像、グラフィック、教育、脳科学と表現の研究など、分野を超えた活動を行っている。平成二十三年度芸術選奨受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
84
教科書に載る小説にはある共通点がある、と編者の佐藤雅彦は言う。あとがきで彼の教科書に対する思い入れがわかるが、12篇の短編全てが面白い。特に「とんかつ」三浦哲郎「絵本」松下竜一「形」菊池寛「良識派」安部公房「父の列車」吉村康「蠅」横光利一「雛」芥川龍之介など。面白いとは、どれもある箇所に来ると、目の前が俄かに開け、世界が明るくなったように感じてしまうこと。それは悲しい物語であっても物事が明確になることに相違ないのです。12篇其々明るくなり方があります。それは誰かが人が育つ過程で読ませたかった小説なのです。2021/01/03
桜もち
59
『面白い』の語源は目の前がにわかに開け、世界が明るくなったように感じる状態らしい。この小説群はそれぞれ短いながら没頭してしまい、読後は電車を見送るみたいな寂しい気持ちになり、その代わり次々と別の教科書小説が繰り出されるから、たまらないです。国語の教科書の小説って、確かにおもしろかった。自主的に次々と教科書を小説ばかり選んで先読んだもん。大人になった今、要約しなさいとか、主人公の心情を100字でとかそんなものに余計な頭使わず世界に夢中になれる。『絵本』と『父の列車』は泣け、『ベンチ』は二度読んだ。2016/02/14
藤森かつき(Katsuki Fujimori)
43
広津和郎の誕生日に。頃合いの本を見つけられなかったので、他の作家と共に集められた中から短編を読んでみた。広津和郎「ある夜」短くて驚く。しかもゲジゲジの話。けれど何気に深い話なのかもしれず、とても印象に残った。来年の誕生日には全集の分厚いのに挑戦しようと思う。切ない話が多かったが、他の方々の話もどれも面白かった。でも教科書で読んだ記憶は一つもないな。松下竜一「絵本」なかなか泣かせる内容で謎も残る。深く感銘を受けた。他には横光利一「蠅」がよかった。芥川龍之介「雛」のラストに記された書き上げた理由に胸が痛んだ。2019/12/05
空猫
23
学校教材の為か、戦争を始め、理不尽な出来事が題材になっていて、鼻の奥がツンとする結末が多い。数頁の短い作品ばかりだが文章の美しさと、特別なことが起こる訳でもなく、ある日常を描いているだけなのに、その世界観に圧倒される。授業で読んだ時とは受け止め方が違うのか、読解力の違いか?教科書って今読むと面白いかも。名作揃いの一冊。2020/12/01
ろくでなし@ぐーたら中
23
61点 勝手ながらその昔、教科書で取り上げられるようなモノに少なからず抵抗感を持っていた。ソコに在ったのは"教材"というモノに対する反発めいた、どなたかの思惑には乗らんしというような、思えば浅はかでチンケなお子ちゃま的バイアスというか中二的強がり。それを改めてお詫びしたい。今なら素直に感じられる。選ぶ際に込められた『誰かが、人が育つ過程に於いて通過させたかった小説』という本来の思いを。あの頃ちゃんと"読む"ことができなかった、響く小説がここには編まれている。「絵本」「少年の夏」「蠅」の3つが個人的fav。2014/04/09