内容説明
よれよれの帽子に、疵だらけのバイオリン。富や名声に執着せず、ただ純粋な音色を求める男のもう一つの幸福（メルヴィル『バイオリン弾き』）。病身の娘マリアに向けた幾千もの薔薇の花…。小さな田舎町で過ごしたあの八週間は、ぼくにとって「特別な人生」だった（トラークル『夢の国』）。もし、あの時あの場所を離れずにいたら、私はどんな人間になっていただろう。故郷ニューヨークに戻った初老の男が、自らの人生にふたたび巡りあう物語（Ｈ・ジェイムズ『にぎやかな街角』）。豊かに時が重なりあう、海外作品三篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
モモ
42
メルヴィル『バイオリン弾き』少年のように溌剌とした魅力のホートボーイ。有名な天才少年だった彼の現在の幸福な様子。メルヴィルが死後ようやく評価されたのが惜しい。トラークル『夢の国』死期がせまる叔父の娘マリア。彼女に捧げる薔薇の花。美しい響きの詩に惹かれる。27歳で夭逝が惜しまれる。H・ジェイムズ『にぎやかな街角』ニューヨーク生まれのジェイムズの自伝とも思える作品。故郷を離れ、ヨーロッパで生活してきた男がニューヨークの実家に帰省する。そこであったかもしれない、もう一つの人生。少し読むのが苦痛。まさに冥でした。2023/02/23
桜もち
42
タイトルは、日常の隣に静かに口を開けている「冥」界の意か。他人、それ自体が異界である『バイオリン弾き』byメルヴィル。病身のマリアと過ごした短い日々は決して戻らない『夢の国』byトラークル。別の選択をして成功していたかも知れない自分を、自分の分身とみなして探すべく夜な夜な古い洋館を彷徨う「私」。『にぎやかな街角』byヘンリジェイムズ。でも、これっておもしろいんですか？というのが正直な感想で、最初の二本は短編で、よくわからないのは言うまでもなく、最後のは、長いけどさらによくわからない、という感じだった。2020/11/05
臨床心理士 いるかくん
33
3人の作家の3篇から成るアンソロジー。かつてあったもの。既に失われたもの。2014/12/15
TSUBASA
19
「冥」の意味を辞書で引くと「暗くて見えない。道理に暗い。奥深い。死後の世界。」とある。自らの詩を酷評された私がいらだつ中で出会った屈託の無い陽気な男。彼の才能を知ることで批評への怒りを忘れる。メルヴィル『バイオリン弾き』。病身の娘へ無数の薔薇を贈った、静寂に満ちた幸福な在りし日を思い出す。トラークル『夢の国』。故郷へ帰って来た初老の男が私と似た男に出会おうとする、H・ジェイムズ『にぎやかな街角』収録。良かったのは散文詩で情景が美しく目に浮かぶ『夢の国』。逆にジェイムズは何故か全然頭に入ってこなかった…。2015/11/15
マッキー
18
どれも今一つよくわからない短編。メルヴィルの「バイオリン弾き」で、バイオリン弾きであるホートボーイが本名を主人公に耳打ちしたシーンがあったんだけど、実際のところ正体は明かされなかった。誰がモデルになっているのだろうか？2017/09/08
