百年文庫  35

  • ただいまウェブストアではご注文を受け付けておりません。
  • サイズ B6判/ページ数 148p/高さ 19cm
  • 商品コード 9784591119174
  • NDC分類 908.3
  • Cコード C0393

内容説明

「俺というものは、俺が考えている程、俺ではない。俺の代りに習慣や環境やが行動しているのだ」―。衰弱してゆくカメレオンをアパートで世話しながら、人間社会の現実と自己の乖離をみつめた中島敦の『かめれおん日記』。少女に教えを乞い自転車の練習をはじめた「わたし」。空襲にあっても深夜の月は皓々と車輪を照らす(石川淳『明月珠』)。敗戦の日の出来事をリアルな生命感覚で描いた島尾敏雄の『アスファルトと蜘蛛の子ら』。灰色の世界を突き抜けようとした人間の真摯さ。

著者等紹介

中島敦[ナカジマアツシ]
1909‐1942。東京・四谷生まれ。横浜高等女学校の教師を経て、1941年、南洋庁書記官としてパラオに赴任。42年に『山月記』『文字禍』で注目され、同年『光と風と夢』が芥川賞候補になるが喘息で死去

石川淳[イシカワジュン]
1899‐1987。東京・浅草生まれ。東京外国語学校卒業後、福岡高校の講師に。辞職後、1936年に『普賢』で芥川賞を受賞。戦後になると無頼派と呼ばれて活躍、晩年まで旺盛な創作活動をおこなった

島尾敏雄[シマオトシオ]
1917‐1986。横浜生まれ。1943年、九州大学を学徒出陣のため繰り上げ卒業し、海軍に入隊。奄美群島に特攻隊隊長として赴任し、待機中に終戦を迎える。島での戦争体験から『出孤島記』『出発は遂に訪れず』などの作品が生まれた。妻ミホとの生活を綴った『死の棘』で読売文学賞、日本文学大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

たーぼー

63
カメレオンの異様なまでの立体的な造型に囚われるごとに倦怠が覆ってゆく男…。あの運命の日(S20.8.15)を越して、こちら側へやってきた男の新世界への不安…。いづれも灰色の世界に置かれた一人の人間的体験が淡々と綴られているにすぎない。だからこそ、自分の大部分も彼らのような感覚、観念と同等に配置されていることを痛烈に指摘されたようにも感じる。そして、文学に表現された生そのものの意味に嘲笑と微笑みを投げかけ、自らを見つめる行為に勤しんでいるわけだ。さて、今後、どれだけの情熱と幻滅の「物語」に接するのだろうか。2017/06/07

風眠

50
黒くもないし、白くもない。その中間が灰色だとしたら、それはもう灰色だからそのままでいい。私自身、そう思えるようになったのはここ数年のことだ。黒か白か納得できる答えを人は求めてしまうけれど、はっきりさせない事で心が平穏でいられると思う。灰には色の名前のほかに、燃えかす、生気が失せた、という意味もある。灰色の現実と灰色の心、外側と内側の『灰』に焦点を当てた三編の物語。そんなに自分を掘り下げて考え続けなくてもいいよ、思わずそう言ってあげたくなる(『かめれおん日記』中島敦)。答えなんて出ない、殊に自分の心の事は。2018/11/10

モモ

47
中島敦『かめれおん日記』高校の授業で山月記は読んだが、それ以外の作品は初めて。『人間はいつまでたってもなかなか成人にならないものだと思う』の言葉が心に残る。他の作品も読んでみたい。石川淳『名月珠』少女に自転車の乗り方を教わる私。ひそかに尊敬する詩人の藕花先生の家が火事で燃える際、原稿のみ持ち出し静かに自宅が燃えるのを見つめる藕花先生の姿に自分の心持を新たにする私。島尾敏雄『アスファルトと蜘蛛の子ら』終戦を前もって知った私。生きていて良いのか逡巡する様子が特攻隊隊長だった島尾氏自身の姿と重なる。好みの一冊。2023/01/31

せんむ

19
随筆なのか小説なのか分からないけど、三話とも話のカラーが違うなぁと感じられた。【島尾敏雄】戦争時代の将校さんという人種はエラく呑気で国民の苦しさを分かっちゃいない雰囲気にイライラさせられっぱなし。【石川淳】一番、ライトに感じられたけど楽しく読めた。作中に登場する詩の大家の先生にはグッとくる。【中島敦】気が付いたら作品と言う名の水中に浸かってしまっていた。だけど読み終えた時は、息苦しさで水面から顔をパッ!と離した感じではなく、気が付けば水が引いていった感覚。もっと浸かっていたいのに。2017/03/25

神太郎

19
さらっと読める感じで良い。どれもちょっと卑屈っぽい感じが出てる作品だなぁと思った。それゆえにそれぞれが似たような雰囲気でありつつ印象深いのかなとも思えた。分量的にも丁度良い。2016/11/08

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/664056
  • ご注意事項