内容説明
司祭フーパーはある日、黒ベールで顔を覆って説教壇に立った。村は騒然となり非難と噂が飛びかうが、司祭はどんな時もベールを外そうとしない(ホーソーン『牧師の黒のベール』)。醜聞で私服を肥やす強請り屋の新聞記者が、妖気漂う未亡人の館でみたのは…(夢野久作『けむりを吐かぬ煙突』)。ファクスランジュ嬢は恋人を捨て莫大な資産を持つという「男爵」と結婚するが、連れて行かれたのは山峡の匪賊の根城だった(サド『ファクスランジュ』)。闇に放たれる罪と欲望のゆくえ。
著者等紹介
ホーソーン[ホーソーン][Hawthorne,Nathaniel]
1804‐1864。アメリカの作家。マサチューセッツ生まれ。ピューリタンの古い家柄の出身で、先祖には魔女裁判の判事を務めた者もいた。人間存在の罪をテーマにした作品が多く、優れた短篇作家としてもよく知られている
夢野久作[ユメノキュウサク]
1889‐1936。福岡県生まれ。新聞記者として、関東大震災などの取材で活躍した後、1926年に雑誌「新青年」で作家デビュー。江戸川乱歩にも高く評価された
サド[サド][Sade,Marquis de]
1740‐1814。フランスの作家。その名が「サディズム」の語源になっている。不品行で何度も投獄され、獄中で多くの小説を執筆。作品は長らく禁書扱いされていたが、現在では高く評価されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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えみ
58
闇は空気より重いというのは本当かもしれない。少しだけ圧迫感を感じるその物語の先に見えた景色は、妖しくて…だけど目が離せなくて。深く考えると抜けられない底なし沼に嵌ってしまうような危険を感じる、3人の作者が描く世界、3篇の短編を収録した『黒』。百年文庫シリーズ第32弾。意志の強さに疑惑さえ向けられるホーソーンの『牧師の黒いベール』。まさかの惨事に息をのむ、夢野久作の『けむりを吐かぬ煙突』。まさかの罪と悲しみに慄く、サドの『ファクスランジュ』。三篇とも作者が違うのに醸し出す雰囲気や匂いが同じように感じる一冊。2023/04/27
風眠
56
どんな強い色も塗りつぶしてしまう、そんなきっぱりと潔い黒ではなく、たくさんの色を混ぜて、混ぜて、混ぜ続けた結果の黒。それは濁っていて、色で分類するなら黒だけれど正しい黒とは違う。どんな時も黒いベールを外さない司祭フーバー。そんな彼を見る人々の心に宿る黒(『牧師の黒のベール』ホーソーン)。ゴシップ記者と妖艶な未亡人、それぞれの心に宿る黒(『けむりを吐かぬ煙突』夢野久作)。魔がさす心に宿る黒(『ファクスランジュ』サド)。人の心に宿る黒は、極端に傾いた感情が混ざり合った黒。猜疑、嗜好、盲信、欲望で濁った黒の心。2018/11/07
モモ
49
ホーソーン『牧師の黒ベール』フーパー牧師が黒のベールをかぶるようになる。一枚の黒い薄絹がもたらす破壊力。フーパー自身も苦しむあたり、キリスト教を知らないと理解は難しそう。夢野久作『けむりを吐かぬ煙突』煙突なのに煙が出ない。その秘密は…。そうまでして手に入れたものの儚さに、おぞけだつ。サド『ファクスランジュ』愛する恋人をすて、お金のあるフランロ男爵を選んだファクスランジュ嬢。その後の不幸、そして最後の別れの場面など、サドの巧みな心情描写にひきこまれる。サドの作品が読めて良かった。他の作品も全部読んでみたい。2022/09/10
かりさ
23
ホーソーン「牧師の黒のベール」、夢野久作「けむりを吐かぬ煙突」、サド「ファクスランジュ」3篇。光の届かない闇と覚めない悪夢の世界。不気味な黒いベールの牧師、妖艶さと悪魔の美、悪意よりも無邪気な人柄が陥った愚かさと救われなさと。どろりとした闇色は魅惑でもある。2021/08/29
鯖
22
ホーソンと夢野久作とサドの黒をテーマにした三篇。夢野久作がカタカナ多めの乱歩だなあと思った。…まあ、ドグラマグラをのぞけば、初めて読んだ彼の作品なので、よくわかってない。サドのはひっでえ男だなあとは思ったけど、サドというイメージから思い浮かぶ悪や黒ではなくて、そこらへんの小悪党だなあという感じで拍子抜け。ホーソンは緋文字は読んだことあるんだけど、あの緋色の印の代わりが生涯外されることのなかった黒のマスクなんかなあ…。 2019/11/30