内容説明
「あたし、どうかしちゃったみたい。ゆうべはべつの男のひとに夢中だったのに、今夜はあなたに夢中みたいなんだもの―」。奔放な美しい娘と恋に落ちた男の去り行く日々の陰影(フイッツジェラルド『冬の夢』)。湖の死亡事故にかかわった弁護士が報告する忘れえぬ人物の話(木々高太郎『新月』)。いつか美しいホテルを建てることを夢見る安宿の主人とアルバイト学生のユーモラスな日々(小沼丹『白孔雀のいるホテル』)。湖を舞台に夢が舞う、ほろ苦い三篇。
著者等紹介
フィッツジェラルド[フィッツジェラルド][Fitzgerald,F.Scott]
1896‐1940。アメリカの小説家。第一次大戦時に大学を退学して任官。終戦後、『楽園のこちら側』でデビューすると、若い世代に支持されて一躍人気作家になった。アメリカが繁栄を謳歌した1920年代を象徴する作家
木々高太郎[キギタカタロウ]
1897‐1969。山梨県生まれ。本名は林髞(たかし)。大脳生理学者のかたわら探偵小説作家としてデビュー。1937年に直木賞受賞。「探偵小説芸術論」を提唱して、甲賀三郎や江戸川乱歩と論戦を繰り広げた
小沼丹[オヌマタン]
1918‐1996。東京・下谷生まれ。本名は救(はじめ)。高校時代から小説を書き始め、井伏鱒二に師事。早稲田大学で教鞭をとりながら、身辺に題材を取った短篇を多く発表。ユーモアとペーソスのある作風で知られた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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えみ
60
風が吹けば細かく波を立て、木の葉が落ちれば静かに輪を広げる水面のように、様々な場面で様々な表情を見せてくれる。喜怒哀楽をまるでそこに映したみたいに不安定ながらもしっかりと認識できる人の感情が活き活きと描かれている。3篇の短編を収録した『湖』。百年文庫シリーズ第29弾。小悪魔の魔力に翻弄され恋という呪いを受けた男が感じた無常、フィッツジェラルドの『冬の夢』。死んだ妻を想う夫の罪はどこにあるのか、木々高太郎の『新月』。宿にくる客の面白さを描いた、小沼丹の『白孔雀のいるホテル』。一時の迷いと惑いを収斂した一冊!2023/03/26
モモ
55
フィッツジェラルド『冬の夢』小悪魔的な魅力のジューディ・ジョーンズに夢中なデクスター。彼女のために別の女性との婚約を破棄するも、むかえる破局。彼女のその後の人生を知り、若い時代の思い出は終わる。木々高太郎『新月』若い斐子と再婚した細田。斐子は湖で死に、事故死とされるも真実は?死んで安心するって…違う気がする。小沼丹『白孔雀のいるホテル』湖畔に白いホテルを経営する計画のコンさんに宿屋の管理人をまかされるも、来る客は困った人たちばかり。小沼氏のユーモアのセンスが好み。湖を背景に語れる様々な人間模様が良かった。2022/11/27
雪月花
50
読友さんの素敵なレビューに感銘を受けて是非読みたいと思い、図書館で借りて初めて読んだ百年文庫シリーズ。フィッツジェラルドの『冬の夢』、木々高太郎の『新月』、小沼丹の『白孔雀のいるホテル』三篇に通じるのは湖の描写の美しさ。特に『新月』ではミステリアスな夜の湖で起こった不慮の死が他殺なのか、その真相を包み込むような湖の存在が不気味でもあり、闇から突如月の光芒がさしたとされる場面も印象的だった。それぞれに楽しめて一気に読んでしまえる百年文庫、他も読みたいと思う。2023/07/31
あじ
20
“選択が許される女性たち”を描いた三篇だったと思う。本能と情熱、そして計算高さと。湖は静観し、事のなりゆきを見守っていたに違いない。2025/01/08
くるみみ
19
読友さんから知り得たシリーズ、百年文庫。フィッツジェラルド目当てに「湖」を図書館で借りた。3人の作家の短編集。グレートギャツビーのギャツビー氏がデイジーを選ばなかったver.的な短編。木々高太郎、小沼丹、初読み。小沼丹とてもよかった。飄々と適当な若い主人公と訳ありだったり変わっている人たちが白いホテルを空想しながら(夢見ながら)軽妙な文章で語られる。吉田篤弘さんの筆致に似ているかも。早速小沼氏の作品をお取り寄せ。テーマごとに纏められているシリーズらしく、他の選書のも楽しみ。(konohaさん多謝です!)2021/06/06