内容説明
酒の名所、伏見の船宿に嫁いだのは登勢が十八の頃だった。頼りない夫と気難しい姑、打ち続く災厄にもへこたれずに生きぬく女性の輝き(織田作之助『螢』)。水上バスに乗って川岸の景色を眺めるうち、記憶の底から呼び出された「魔物」の正体(日影丈吉『吉備津の釜』)。都での宮仕えが決まった夫は津の川を東へ、妻は西へと別れた。ふたたび一緒に暮らせる日を願って妻は便りを待ち続けるが…(室生犀星『津の国人』)。暮らしに川が生きていた頃の、日本人の心の風景。
著者等紹介
織田作之助[オダサクノスケ]
1913‐1947。大阪生まれ。旧制第三高等学校時代より文学を志し、1940年、『夫婦善哉』で新進作家としての地位を獲得。坂口安吾、太宰治らとともに「無頼派」と呼ばれ、『わが町』『世相』『競馬』などを発表。人気作家として活躍したが33歳で死去
日影丈吉[ヒカゲジョウキチ]
1908‐1991。東京・深川生まれ。本名は片岡十一。アテネ・フランセでフランス語を学んだ後、フランス料理の指導をしていたが、戦後『かむなぎうた』が懸賞小説に入選して探偵小説作家に。翻訳家としても活躍した
室生犀星[ムロウサイセイ]
1889‐1962。石川・金沢生まれ。本名は照道。金沢地方裁判所に給仕として就職後、俳句や詩をつくり始め、20歳で詩人を志す。北原白秋主宰の「朱欒」に発表した詩で注目され、その後小説家としても認められた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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