内容説明
ノアの方舟から放たれた最後の鳩は、今も永遠の平和を求めて飛び続けている―。旧約聖書に題材をとった小品（ツヴァイク『第三の鳩の物語』）。目的地へ急ぐ車上から目にした一瞬の光景。それは生涯、「私」を赤面させる温かな叱責であり続けるだろう（魯迅『小さな出来事』）。美男の青年近衛士官が突然、輝かしい未来を捨てて修道院に入った。贖罪を求めて彷徨する魂を描いたトルストイ晩年の傑作『神父セルギイ』。胸底に灯をともす、文豪たちの誠実と愛。
著者等紹介
ツヴァイク［ツヴァイク］［Ｚｗｅｉｇ，Ｓｔｅｆａｎ］
１８８１‐１９４２。オーストリアのユダヤ系作家、評論家。ウィーンの裕福な家庭に生まれ、詩・小説・戯曲・評論などで多くの作品を残した。『マリー・アントワネット』など伝記小説が有名。１９４２年にブラジルで服毒自殺
魯迅［ロジン］
１８８１‐１９３６。中国の作家、思想家。本名周樹人。１９０２年より７年間日本に留学、仙台の医学専門学校に学ぶ。辛亥革命後、臨時政府の職員となり、１８年に魯迅の筆名で『狂人日記』を発表
トルストイ［トルストイ］［Ｔｏｌｓｔｏｙ，Ｌｅｖ］
１８２８‐１９１０。１９世紀ロシア文学を代表する作家。名門貴族の家に生まれ、農地改革に取り組むが挫折。『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などの長篇小説で文豪としての地位を不動のものとした。妻との不和から家出し、寒村の駅舎で病死（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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藤月はな（灯れ松明の火）
96
寓話である『第三の鳩の物語』が沁みる。神の手から離れ、平和な世界で眠りについていた鳩が目覚めた時、彼女は永遠に空を飛び続けなくてはならなくなった。それが怠惰による罪だというのは簡単だろう。しかし、それでも彼女の今の意現状を思うと余りにも辛い。同時に自らの業を止められず、予感に慄きながらも救いを求めるしかない人間と鳩の無力さにも震える。作品執筆後にホロコーストから逃れ、愛していたヨーロッパ文明が戦争という野蛮に食い尽くされていくのに絶望し、自殺したツヴァイク。まるで彼と世界を憂うような予言みたいな物語だ。2018/08/11
風眠
73
ノアの方舟から放たれた最後の鳩は、今も永遠の平和を求めて飛び続けている（ツヴァイク『第三の鳩の物語』）。目的地へ急ぐ車上から目にした一瞬の光景。それは生涯、私を赤面させる叱責であり続けるだろう（魯迅『小さな出来事』）。美男の青年近衛士官が輝かしい未来を捨て、修道院に入った。贖罪を求めて彷徨する魂を描いたトルストイ晩年の傑作『神父セルギイ』。胸底に灯をともす 、文豪たちの誠実と愛。/（紹介文より）苦手な海外文学、しかも古典なので宗教的な暗喩を理解できず、文豪たちの誠実も、愛も、感じる余裕がなかった。難しい！2018/07/16
えみ
61
執筆された当時の時代背景や作者の状況を知ると、よりこの小説が味わい深いものに変わる。じっくりと咀嚼しながら3つの短編集を楽しんだ。百年文庫第8弾は『罪』がテーマになっている。旧約聖書“ノアの方舟”を題材にした不忠実ゆえに、自由と平和を求め彷徨う鳩の役目を伝えるツヴァイク『第三の鳩の物語』。己の器の小ささを恥と悟った魯迅『小さな出来事』。宗教観とそれを形成する人間の行いを欲と後悔と懺悔で描いたトルストイ『神父セルギイ』。どの話も興味深かったが、『神父セルギイ』の赦しとは何か？を問う厳かな気配がよかった。2022/10/23
モモ
47
ツヴァイク『第三の鳩の物語』ノアの方舟から使者として放たれたが戻ってこなかった第三の鳩。人間がいたるところで戦争をするので帰ることができなかったのだ。ユダヤ系のツヴァイクが弾圧から逃れるため各国を転々とした姿に重なってみえた。魯迅『小さな出来事』日常起こりうる小さな出来事。でも小さな出来事にこそ、その人となりがでるのかもしれない。トルストイ『神父セルギイ』婚約者が敬愛する皇帝の愛人だったと知り絶望し修道士になるセルギイ。信仰が彼を救うようにも苦しめるようにもみえる。罪って、なんだろう、と考えさせられた。2022/07/25
ポップ
37
生きとし生けるもの、罪の大小を問わず、生き方に影を落とす。「第3の鳩の物語」祖宗ノアの元を離れ、第3の鳩は自由の身となった。人類の業火は大洪水の再来となる。「小さな出来事」名もなき善行は、高名な人物にも感銘を与える。恥を教え、奮起を促す。「神父セルギイ」最愛の人と敬愛する皇帝への忠誠から、侍従武官の座を捨て、カサートスキイは修道院へ逃れた。隠者となり奇蹟を起こし、聖者として崇められようとも、悪魔の囁きがまとわりつく。幼少から忘れ得ぬ夢を見たとき、天使の声が罪の救いを説く。俗世の栄誉に神は存在しないだろう。2021/02/05
