出版社内容情報
マンの小説『魔の山』は,綿密に構成された〈時の小説〉である。その技法と構成された時間世界,そして同書を読むことで得られる〈美的な時間〉の位相を考察する。
内容説明
トーマス・マンの長編小説『魔の山』は、綿密に構成された〈時の小説〉である。その小説技法と構成された時間世界を精細に分析するとともに、同書を読むことによって享受される〈美的な時間〉、すなわち読者の〈生きられる時間〉の位相を探究して、独自の〈時の美学〉を提唱する。
目次
第1章 時の小説(語り手の性格と自然時叙法;カストルプの時間感覚と語り手の時間見解;「眠り人」の夢と夢叙法)
第2章 構成時間(ライトモチーフ叙法と対位叙法;時の錬金術と文学的虚構時間)
第3章 読書の美的時間性(読書の魔境と時間意識;時の美学)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アルゴス
6
トマス・マンの『魔の山』を時間の概念を手掛かりに解読しようとする書物。時間の構成のさまざまな様相から、作品を解読していく。たとえば作品を流れる時間の構成方法と叙述における時間の流れの違いとか単位質、持続質、継起質などの時間の質的な様相を比較して読む。 この作品は時間の問題が頻繁に提起される作品であるために、こうした分析が可能であるのはたしかだが、技法的なところに目が向きすぎると、作品の大筋の分析がゆきとどかない傾向がある。2018/02/26
山がち
1
叙述というよりも文体論的なものを感じて、そこに納得するのを難しく感じてしまった。文体の技法で種々の分類が行われていたが、私にとってはなじみのないものである。それよりも、小黒氏が指摘していたようなヒゲのモチーフなどから、時間について考察していく方が私としては納得のいくところと言えそうな気はする。ただ『魔の山』それ自体が時間について過分の言及をしている小説なのだから、そこをもっとわかりやすく丹念にほどいていってくれた方が、『魔の山』を理解するためには個人的にはありがたかったのにといううらみがないわけでもない。2014/01/27