内容説明
鉄道旅行を産業革命の市民的体験としてとらえた19世紀の交通文化史・旅の思想史。草創期の鉄道が同時代人に与えた衝撃を、時間・空間概念を軸に検討する。
目次
原動力の機械化
機械のアンサンブル
鉄道の空間と鉄道の時間
パノラマ風の旅行
仕切った車室
米国の鉄道
鉄道旅行の病理学
事故
鉄道事故、鉄道性脊柱、外傷性ノイローゼ
刺戟保護、または工業化した意識
都市への入り口―駅
都市の中の鉄道線路
著者等紹介
シヴェルブシュ,ヴォルフガング[シヴェルブシュ,ヴォルフガング][Schivelbusch,Wolfgang]
1941年、ベルリンに生まれる。フランクフルト大学とベルリン大学で文学・哲学・社会学を修める。1973年以降、ニューヨークとベルリンに在住し、多彩な著作活動を展開。2003年にハインリヒ・マン賞を授賞、2005年にマルティン・ヴァルンケ・メダル(アビイ・ワールブルク基金文化学賞)を授与された
加藤二郎[カトウジロウ]
1925年、神奈川県に生まれる。東京大学文学部独文科卒業。一橋大学教授・神奈川大学教授を歴任し、現在、一橋大学名誉教授。ドイツ文学専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
つまみ食い
5
当たり前だが、今日のどんなお年寄りでも鉄道普及以後に育った人間であり、鉄道はあまりにも当たり前でそれ以前の社会について想像することは難しい。本書はそんな鉄道の以前と以後を比較することがテーマといえる。19世紀のヨーロッパとアメリカにおける鉄道の普及が人々の感覚と社会、風景などをどのように変容させていったかを様々な資料や証言から浮き彫りにしていく。2023/02/21
ああああ
4
技術的事故とそれにより呼び起こされる衝撃の中で、技術的完全化により追い出されていた不安が、いわば復讐をしかけるのだ。新技術に直面したときの不安が、この技術に慣れることで完全に消し去られはせずに、ただ忘れられ追放され…こうも言えよう 物象化 (verdinglichen) されて、 安全という感情になっただけだということが、今や明らかとなる。 昔の不安が新しい姿をとり、いわば犠牲者の背後から、恐怖という形を取って登場する。 昔の不安が、新技術から想像上あるいは現実に出来する危険を先取りして、2024/08/19
rune
3
超おもしろい。/鉄道の登場が人々と社会をどう変えたのか、という実にシンプルな問題を扱っているのだが、第一にそのアプローチの仕方がいい。時間と空間の抹殺、パノラマ的な眼の出現、アウラの消失(ベンヤミン)、刺激保護理論(フロイト)といった概念の援用が、著者の主張の独自性と説得性を担保している。/第二に、挿話がいちいちおもしろい。①鉄道の誕生以前、円形の車輪は滑らかなレールの上では空転するはずだという「空想上の難問」が存在したこと、②欧州では馬車の発展形として、米国では船の発展形として鉄道が観念されたこと・・・2022/09/06
♨️
3
馬車から鉄道への輸送手段の変化(イギリス)を辿りつつ、それに伴う時間空間認識の変化や精神の影響を見ていく本。輸送が独占されるという発想がなかったために道路のように線路を作る発想があった話とか、移動の速さゆえ形としては馬車のそれを残した一等二等の個室からも会話が消え読書が現れたこと(それは賑やかな三等四等や「陸路における蒸気船」として現れた米のコミュニケーション向きの車両の様子とはことなっている)、物的な速度による車窓からの新しい「パノラマ的」知覚と、百貨店での商品の「パノラマ的」知覚に見られる対応など2020/08/13
Mentyu
2
鉄道という19世紀のテクノロジーが欧米人の生活と意識をどのように変えていったのか、豊富な史料と図版を使いながら華麗に解き明かしていく内容はなかなか愉快なものだった。考古学徒としては、客車の形態が変わっていくことが乗客にどう影響を与えてきたのかという議論が興味深かった。モンテリウスが型式論の説明をする際に例示するだけに終わってしまった客車の変遷に、こういうアプローチがあったという事実は、これからの近現代考古学の方針を考える上で非情に重要な論点ではないかと思う。2016/07/28