出版社内容情報
知の広大な領野を駆けめぐり,旅・翻訳・交換へと変転するコミュニケーションの新たな意味を提示する。著者の方法と思想の全容を示す〈ヘルメス〉全5巻の第1巻。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
9
ヘーゲルの弁証法を対等な力を持つ者同士の間にのみ生じる限定的で貧弱な戦いと評する著者は、その限定性をプラトンの対話にも見出し、コミュニケーションは第3項(雑音、妨害物等)が排除されて成立すると述べる。グラフ理論を念頭に弁証法を多様な関係の特殊ケースと捉える本書は、プラトニズムに始まる抽象数学の議論にも第3項排除の動きを見、手書き記号が何度か使用されると同じものと再認する際に誤記や個々の手書きの癖が排除されて意味が成り立つと指摘する。抽象化によって観念が経験を排除する場面でも、著者は両者の密接な関係を見る。2024/08/19
ひばりん
8
「カントは100年単位の天才、ライプニッツは1000年単位の天才」は坂部恵の有名な言葉だ。セールは、まさしくカントの時代が終わりつつあること、次代の哲学のためにはライプニッツに戻らねばならないことを説く。ちょうどチェリストがバッハの無伴奏組曲を何度も録音するように、セールは終生繰り返し繰り返しライプニッツを語る。本書でのモナド論は、おそらく後年消去されてしまう解釈を多く含んで、若きセールの苦闘の記録だ。ついでにいえばフーコーはこの本のモナド解釈を良い意味で誤読してパノプティコン論を発明したと私は思う。2021/10/09