内容説明
伝統的宗教は近代化に何をもたらしたのか。近代化論において長く支配的であった物語(ナラティブ)は「宗教」と「世俗」の二分法という思考機制を前提としてきた。しかし、十九世紀に成立した近代国民国家における「国民」の構築に際して、伝統的宗教が果たした役割は決して小さくない。急激な近代化を迎えた日本とドイツでは、制度化された宗教の周縁およびその外部にさまざまな社会的・文化的革新運動が発生し、それらは自己の方向づけと正統化の拠り所をしばしば「宗教性」に求めた。一八七〇年代から第二次世界大戦前までの日本とドイツにおいて、宗教性が政治や学問など宗教の外部の「世俗的」諸分野へといかにして「転位・流出」していったのか。その諸相を照射し、「宗教」と「世俗」の二分法という既存の思考機制そのものを批判的に問い直す。「彷徨する宗教性」という視角より捉えた「近代化」の姿とは?
目次
第1部 近代日本―神話・宗教と国民文化(「第1部 近代日本―神話・宗教と国民文化」解題;日本国家のための儒学的建国神話―呉泰伯説話;神道とは宗教なのか?―「Ostasien‐Mission(東アジアミッション)」(OAM)の報告における国家神道
国民の人格としての生きる過去―昭和初期フェルキッシュ・ナショナリズムにおける『神皇正統記』とヘルマン・ボーネルによる『第三帝国』との比較
戦間期における宗教的保守主義と国家主義―ルドルフ・オットーと鈴木大拙の事例を手掛かりに ほか)
第2部 近代ドイツ―民族主義宗教運動と教会(「第2部 近代ドイツ―民族主義宗教運動と教会」解題;ナザレ派という芸術運動―十九世紀における芸術および社会の刷新理念としての「心、魂、感覚」;「悪魔憑き」か「精神疾患」か?―一九〇〇年前後の心的生活をめぐるプロテスタントの牧会と精神病学との論争;近代ドイツにおける宗教知の生産と普及―ドイツ民族主義宗教運動における「ナザレのイエス」表象を巡って;自然と救済をめぐる闘争―クルト・レーゼとドイツ民族主義宗教運動 ほか)