内容説明
女性の霊的な力や心的な影響力の意義を論じた柳田国男の「妹の力」論。この思想は戦前戦後の民俗学の主要なテーマの一つとして展開されてきたが、近年、女性史・女性学研究の立場からさまざまな批判が繰り返されている。家庭内での女性の大きな役割や、その前提となる女性の男性に対する霊的優位性を否定し、「妹の力」の歴史的存在そのものをも認めまいとする主張もある。しかし、必ずしも柳田の主張が正しく理解されてきたとはいいがたい。柳田は「妹の力」にどのような意図や主張を込めたのだろうか。改めて時代状況のなかに置き直して考察するとともに、沖縄の「オナリ神」信仰や女性祭司と巫女、遊女、長崎のかくれキリシタン、中国古代の敦煌など、時代地域を異にする女性たちが担った独自の信仰の事例を多数提示し、女性の霊的な優位性を再検証する。「妹の力」を男女の関係や現代社会のあり方を捉えなおす視座として提示するとともに、個人的な生にとって意義のある歴史の構築を目指した柳田国男の民俗学を問い直す画期的成果。
目次
1 「妹の力」とその時代―大正末年から昭和初年へ(「妹の力」の政治学―柳田国男の女性参政論をめぐって;柳田国男の女性史研究と「生活改善(運動)」への批判をめぐって)
2 霊的力を担う女たち―オナリ神・巫女・遊女(馬淵東一のオナリ神研究―オナリ神と二つの出会い;折口信夫の琉球巫女論;地名「白拍子」は何を意味するか―中世の女性伝説から『妹の力』を考える)
3 生活と信仰―地域に生きる「妹の力」(くまのの山ハた可きともをしわけ―若狭・内外海半島の巫女制と祭文;長崎のかくれキリシタンのマリア信仰;敦煌文献より見る九、十世紀中国の女性と信仰)
4 女の“生”と「妹の力」―生活から歴史を眼差す(江馬三枝子―「主義者」から民俗学へ;「妹の力」から女のための民俗学へ―瀬川清子の関心をめぐる一考察;「女坑夫」からの聞き書き―問い直す女の力;高取正男における宗教と女性;「妹の力」をめぐるミニ・シンポジウムの歩み)