内容説明
この優雅な比較文学論は、謡曲と『神曲』の類似性の指摘から始まる。あの世を旅するダンテはワキ、ワキツレはウェルギリウス、曲ごとに出会う亡霊がそれぞれシテである。夢幻能の彼岸は仏教、ダンテの来世はキリスト教だが、亡霊は現世の恨みを語り、執着を絶ちたいと願う。その願いは英語で言えば東西ともにsoul’s wish to break the bondsと同じである。著者はウェイリー訳No Plays of Japanを用い、両者に共通のこのキー・ワードのみか、詩的な発想や救いの構造の同一性を立証し、ブレヒトの党の掟が中世の生贄の大法の掟にほかならぬことも証する。圧巻は漢文化と日本人のアイデンティティーの関係を白楽天の英訳を活用することで説いた最終章だろう。平川は英国の優れた東洋学者ウェイリーを学ぶことで西洋の偉大を自覚したという。
目次
謡曲の詩と『神曲』の詩
付録 夢幻能オセロ
ウェイリーの「白い鳥」―『初雪』の英語翻案
党員の掟―ブレヒトの『谷行』翻案
漢文化と日本人のアイデンティティー―白楽天の受容を通して
朝日選書版へのあとがき(一九七五年)
シテとなったデズデモーナ
世界文学としての能
『謡曲の詩と西洋の詩』解説
著作集第二十三巻に寄せて―『謡曲』から『夢幻能オセロ』へ
著者等紹介
平川祐弘[ヒラカワスケヒロ]
1931(昭和6)年生まれ。東京大学名誉教授。比較文化史家。第一高等学校一年を経て東京大学教養部教養学科卒業。仏、独、英、伊に留学し、東京大学教養学部に勤務。1992年定年退官。その前後、北米、フランス、中国、台湾などでも教壇に立つ。ダンテ『神曲』の翻訳で河出文化賞(1967年)、『小泉八雲―西洋脱出の夢』『東の橘 西のオレンジ』でサントリー学芸賞(1981年)、マンゾーニ『いいなづけ』の翻訳で読売文学賞(1991年)、鴎外・漱石・諭吉などの明治日本の研究で明治村賞(1998年)、『ラフカディオ・ハーン―植民地化・キリスト教化・文明開化』で和辻哲郎文化賞(2005年)、『アーサー・ウェイリー―『源氏物語』の翻訳者』で日本エッセイスト・クラブ賞(2009年)、『西洋人の神道観―日本人のアイデンティティーを求めて』で蓮如賞(2015年)を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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