内容説明
チベットではじめて現代文学を生みだし、若くして自ら命を絶った伝説の作家、トンドゥプジャ。人びとの喜びや哀しみを丹念に描きだすその作品群は、物語を語る情熱と創造の気概にあふれ、世界でも類を見ない瑞々しさにあふれている。作品世界を理解するための詳細な解説、伝記を付し、その主要作品を日本ではじめて紹介する。
著者等紹介
トンドゥプジャ[トンドゥプジャ]
1953年、東北チベットのアムド地方(青海省黄南チベット族自治州チェンザ県)に生まれる。ラジオ局勤務、教職を経て、1981年、処女作『曙光』を出版。仏教文化伝統の縛りが極めて強かったチベット文学に斬新な口語的表現を導入して、男女の感情の機微や普通の人々の心のうつろいを描き、チベット文学界に新風を巻き起こした。とりわけ中国という新体制下の社会を写実的に描いた小説をチベット語で書いた最初の作家である。1985年、32歳で自殺(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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りー
30
チベット文学というものが全く想像できずに手に取った。チベットというと密教なんかのイメージが強いのでどんな突飛な物語が飛び出すのかと思えば、青臭いと言っても過言じゃないくらい素直な人間ドラマばかり。僕が期待の方向性を間違えただけで、真っ直ぐに胸に飛び込んでくる若さがあって決して悪くはないのだが。巻末の作品解説やトゥンドゥプジャの伝記が面白かった。2014/02/16
はる
10
著者トンドゥプジャはチベット語で文学を書くチベット現代文学の先駆者。現在のチベットを少し思い入れし長編小説かと手にした。この小説は青海省黄南チベット地区を舞台にした15の短編で仕立て上げられ、風景も習俗も新中国も見える読み易いものでした。しかし内容はとても深く、チベット人が脈々と継承してきた習俗、文化大革命とその後の社会でチベット人が獲得した新たな意識を垣間見ることのできるものでした。ある短編には莫言やマルケスの魔術的リアリズム手法程ではないですが、不思議な感覚に陥る作風もあります。→2022/02/27
パラ野
5
あくまでも「現代」チベット文学。チベットの生活における口話文学と、文語で残ってきた古典、日常会話をいかにして現代の文学として練りこんでいくのか、そういう問題に対して、敏感な短編集。全ての短編で使用している技法が違う。チベット族として、ことわざ使った丁々発止のやり取り、古老の因習に囚われた語り、少数民族としていかに中国政府によって持ち込まれた近代と融合させるか、重たいほどに考え込まれている。瑞々しく遊牧民ののどかな生活の根底に、引き裂かれるような感覚が読後に残る。チベット語の豊かさが感じられる翻訳。2014/03/22
三毛子
4
日本で初めて翻訳された、チベット語で書かれたチベットの現代文学だそうです。残念なことに著者は1985年に32歳で自死、いまださらに深まる「チベット問題」を予感してのことだったのでしょうか。政治的なことを抜きにしても、素朴な恋愛物語、草原ならではのことわざなど、面白い点がたくさんあります。2013/06/28
Hisatomi Maria Gratia Yuki
3
本編と解説途中まで。チベットの庶民、それもバカな男や悪い女などが生き生きと描かれる短〜中編集。作者が30代前半で自死したため、未完のものもあるが、どれも面白い。ただ、自分がもっとチベットの諺もわかるくらい知識があれば、もっと楽しめたのだろうと思う。年月を置いて、再読したい。2018/01/10